愛しのかな 作者:田中ユタカ 期間:2006-2009 巻数:全3巻 評価:★★★★☆ Amazonで詳細を見る |
あらすじ
仕事と住居をいっぺんに失った天野大吉が、ホームレス寸前に追い込まれた末にたどり着いたのは、幽霊が住むと言われたアパートだった。アパートは、石段を登った高台の上にあったが、高台を覆う木々のために表通りからはほとんど見えなかった。アパートは、外界から切り離されてひっそりとしており、大吉以外の住人はいなかった。
アパートに移り住んだ初日、大吉の部屋は電気さえも点かなかったが、一つの出会いがあった。
それは、かなというビールの好きな明るい女の幽霊だった。噂ではかなは自殺した女の幽霊とのことだったが、死んだときのことはかなは忘れていた。
大吉もまたその日、死んでしまってもいいと思っていた。そして、かなとの出会いがなければ、それは実現されてしまったかもしれなかった。
大吉は、かなに触れることができた。それには、かなも驚いた。そして、二人は裸になり情交を交わす。
大吉は、かなという女に恋をした。かなは、その初めての行為に生きることの素晴らしさを感じ、自分が既に死んでしまっていることを悲しんだ。
次の日、大吉はかなが消えていないことにホッとし、かなは恥ずかしそうに大吉を見つめた。
そして、二人の穏やかな生活が始まった…。
世俗から切り離された二人だけの世界
大吉とかなは、二人だけが住むアパートの環境を整えることから始める。二人が暮らしやすいように。かなは、アパートの外に出られなかったので、大吉が買い出しをし、また日雇いの労働をした。
そんな日々の中、二人は何度も何度も愛し合う。それは、何も障害の無い恋人のように明るく、いつまでも続く濃厚な交わりだった。
という非現実だが、男にとって理想的な世界がそこに描かれる。それは、誰も知らない、誰も侵すことのできない「自分の家」で、そこには愛する人が居て、自分やパートナーの人間関係に惑わされず、ただ愛を与えて、愛してもらい、好きなだけ愛し合うことができる。
そんな、男の理想的な妄想を描いた作品だが、そんな穏やかな雰囲気とは裏腹に、愛情濃く描かれているがゆえに、交わりの描写は濃厚で、エロティックな度合いはかなり強い。