ハクバノ王子サマ 朔ユキ蔵 作

ハクバノ王子サマ
作者:朔ユキ蔵
掲載:ビッグコミックスピリッツ
期間:2005-2008
巻数:全10巻
評価:★★★★★
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朔ユキ蔵作の『ハクバノ王子サマ』は、ビッグコミックスピリッツで連載していた、大人の恋愛物語を描いた漫画。

新任教師である晃太郎と年上の先輩である多香子の恋愛物語で、婚約者がいながらも多香子に惹かれていく晃太郎と、寂しさゆえに結んだ不倫を清算し、幸福な未来を模索しながらも婚約者がいる晃太郎を愛してしまった多香子の心模様を描いた作品。

以下はネタバレ注意。


あらすじ

会社員から転職し女子校の新任教師となった小津晃太朗(おづこうたろう)は、7歳年上の32歳になる同僚・原多香子と出会う。

晃太郎は、婚約者がいたが留学中だったこともあり、多香子に惹かれるようになる。それは、多香子が同高校の黒沢と不倫していたことを知り、嫉妬心を煽られたことがきっかけではあったが…。

一方、多香子も晃太郎が他人の男だと分かっていたものの、晃太郎に惹かれていく。その想いは晃太郎が、清算したはずの黒沢との不倫関係に再び逃げそうになった多香子を思い留まらせたり、しつこく連絡を取ってくる黒沢から距離を置くことを手助けしたことなどによって、深まっていく。

晃太郎は、婚約者と別れるつもりはなかったし、浮気が簡単にできる男でもなかった。しかし、多香子に惹かれ、抱きたいと思う気持ちを抑えることができなかった。

多香子もまた、自分のものにならない男に気を取られている歳ではないと感じていたし、そうあろうとしていた。しかし、すでに晃太郎のことを好きになってしまっていた。

二人は抑えきれず、たびたび肉体関係を持つに至ろうとした。しかし、最後の一線は超えなかった。それは、留学の休みのたびに帰ってくる婚約者や、多香子との付き合いを反対する晃太郎の妹の存在があったからだった。

多香子の存在を知ってか、晃太郎の婚約者は、結婚を前倒しするために予定より早く日本に帰国する。しかしこのとき、晃太郎は多香子と離れることはできなくなっていた。

そして、婚約を破棄することで、晃太郎は多香子と遂に結ばれることとなる。



過去の男と肉体関係を持とうとする女性

物語の序盤、晃太郎が新任したばかりの出来事に次のような描写がある。

ある仕事終わりに晃太郎と多香子、そして多香子と過去に不倫関係のあった同僚の黒沢明夫の三人で飲みに行くこととなる。

しかしその席で、多香子は晃太郎に婚約者がいることを知ってショックを受け、寂しさを紛らわすためか、黒沢を家に招いて肉体関係の間際にまで至る。

多香子のこの行動は、飲みの席の二人きりになったタイミングで、黒沢が「大丈夫?」と声をかけたことに含まれるメッセージを受けてのことだが、不倫関係に限界を感じて自ら終止符を打った多香子にとっては、自分を不幸にするダメな事だった。


このような、過去の男と肉体関係を持つ女性というのは枚挙にいとまがないが、見知っているゆえの安全さや、男側が断る可能性の低さゆえの気軽さから、女性の性欲や寂しさを紛らわすのに格好の行動だろう。


純粋さを残した大人の女性を描く

本作は上記のように、序盤にヒロインを”落とす”描写をしながらも、その後の物語におけるヒロインの言動は可愛らしく純粋だ。

晃太郎と婚約者のツーショット写真に悲しみから涙をこぼしたり、鎌倉の大仏前で晃太郎と一緒に写真を撮ることを想像して嬉しくなったり、すれ違った後に振り返って背中を見つめたり、まるでピュアな女子高生のように多香子は描かれる。

それは、たくさんの経験を経ても、作為なく純粋な女性をリアルに感じさせ、またこれを描くことが、本作の主要コンテンツではないだろうかと思う。ちなみに、作者である朔ユキ蔵は女性とのこと。【ウィキペディア:朔ユキ蔵


見境のない男の嫉妬心

主人公・晃太郎は、婚約者がおり、浮気心がある人間でもない。にもかかわらず、まだよく知らない、綺麗な人だとの感情しかない多香子と黒沢の不倫関係を知って嫉妬心を持つ。

さらに、多香子の善良な人となりを知ることにより、晃太郎の嫉妬心は正義感に包まれ、行動を起こさせる。


この見境のない男の嫉妬心は、自分と関係のない女性、口説こうと思っていない女性に対しても引き起こされ、特に競争相手がいるときに強くなる厄介な心理である。

しかも、不倫などの理由で女性側が不利な場面では、嫉妬心は大義名分を与えられ、正義感と名を変えて男の行動を促す。

望まない女性にとっては、かなり迷惑な男の心理だが、たくさんの種を残そうとする生物的本能に由来する心理なので、どうにもならないだろう。
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