インヘルノ 作者:マツモトトモ 掲載:AneLaLa 期間:2013- 巻数:既刊3巻 評価:★★★★★ Amazonで詳細を見る |
近親恋愛という禁じられた行為ゆえに、これを守ろうとする姉の肥大化した思考が周囲を巻き込み、愛する弟を傷つけ、泥沼に陥っていく姿を描く。
導入
陶器のような白い肌に華奢な体つき、造形物のように美しく対称に配置された顔。そんな少女でありながら、家入更の物腰は大人びて、その眼差しは理知的だった。高校2年で生徒会役員の更は、その日彼女には珍しくご機嫌で、役員の仕事を手早く終わらせ、皆を後にして帰宅した。
更は母親と二人で暮らす母子家庭だったが、母が4年前に離婚した父と復縁し、別れ別れになった弟と会えることになっていた。
小さくて女の子のようだった弟とまた一緒に暮らすことができると思い、嬉しさにはやる気持ちが更にあった。
しかし親に渡されていたという鍵で家に入ってきたのは、長身で気性が荒そうな男だった。
4年前に最後に会った弟とのあまりの違いに更は驚き、更はおそるおそる弟・轟に話しかける。しかしその返答は反抗期かと思うほどに素っ気なく、しかもその突き放した態度は更だけに向けられているようであった。
明くる日、家に帰った更は轟の部屋から鳴り響く音楽に驚き、轟の部屋に入る。ステレオを消した更は、寝不足からの疲れもあって、轟のベッドに横になってしまう。
気を抜いて寝てしまったら轟に怒られると、起き上がろうとしたその時、轟が部屋に入ってくる。すかさず寝たふりをした更は、怒鳴られると思いながら目をつむっていた。
しかし轟は、更にやさしく布団をかけるだけで、部屋を出て行く。
そして、そんな轟に更は混乱する。自分は嫌われているのではなかったのかと…。
しかしその後も轟の冷淡な態度は変わらず、また学校では問題を起こしていた。それを更は注意し責めたが、轟は反抗するばかりであった。
キミなんて私の弟じゃない!思わず口にした更の言葉に轟は、
「弟じゃない」?と言って、家をでる。
それガチでOKだわ
もう同じ空気吸うのもシンドイ
イライラしながらも、更は昔の二人に戻れないことに悲しみを抱く。そして買い物に行くと家を出た更は公園に向かっていた。
広い公園、それはだだっ広い場所が好きな弟が居そうな場所だった。そして轟はベンチに腰掛けていた。
その轟の前を更は通り過ぎた。
しかし轟は、誰もいないかのように座っているだけだった。そして轟はつぶやく。
これでいい…
よくないわ更は轟の背後にいた。そして轟の首に抱きつき言う。
私、これからずっとそばにいるの、365日一緒に
私たち死ぬまで切れない
地獄だぜ轟は更にそう返した…。
あらすじ
幼少期の姉・更を求める気持ちが、離れ離れになったことで男女のそれにかわってしまった弟・轟。そして、再び共に暮らすようになり、轟はその閉じ込めておけない気持ちに心掻きむしられる。一方、更は他人を好きになったことも、何かに夢中になった経験もなかった。しかし唯一、轟に対してだけは執着心があった。その形は家族のそれかもしれなかったが…。
しかし4年ぶりにあった弟は、執着心を抱いていたその頃の弟とはまったく別のいきものになっていた。それは猛々しく自分とは別の匂いのする、男というものだった。
轟と更は、昔のように話し触れあうことはできなかった。そして轟は更を愛するがゆえに離れようとし、更はそれに気づきながらも轟を手放すことはできなかった。
そして更は轟の愛を受け入れる。それは、更の穏やかな執着心がより熱のある何か別のものへと変わってしまったからだった…。
二人は抱き合いキスをした。学校で、家で、もし世界が二人だけだったらどこででも…。
しかし更は隠したかった。隠さないと失われる、更はそう思った。そのために更は、同じ生徒会役員の古庄と付き合う。更にとっては、こうすることが轟との関係を続けるための唯一の方法に思えたのだった…。
感想
常時、心がざわざわするのを抑えられない、そんな恋愛物語である。轟の隠せないほどの激情的な愛が、失われなければ周囲を傷つけ轟が壊れることもいとわない更の愛に飲み込まれていく。その過程が、轟を思うと切なく、更を思うと恐ろしさを感じさせた。
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