うしおととら 藤田和日郎作

うしおととら
作者:藤田和日郎
掲載:週刊少年サンデー
期間:1990-1996
巻数:全33巻
評価:★★★★★
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『うしおととら』は藤田和日郎作の怪奇バトルファンタジー漫画で、1990年から1996年まで週刊少年サンデーで連載された。全33巻。

妖怪を滅する槍に選ばれた少年・潮(うしお)が、槍に拘束されていた妖怪・とらと共に様々な妖怪と戦い、また試練を乗り越えていく冒険物語。


導入

僧侶の息子である蒼月潮は、その日も父親・紫暮からの説教に反抗しては喧嘩をしていた。しかし紫暮は、齢47にしてたくましく、あっさり敗れた潮は、紫暮に蔵の本の虫干しを命じられるのだった。

嫌々ながらも蔵の本を集めていた潮は、蔵の床の扉に気づく。気が短い潮は、考えることなく扉の取っ手を力任せに引っ張り、扉は壊れ、潮は地下室に落下してしまう。

地下室なんてあったのかと、驚いていた潮は、その暗闇の中に気配を感じる。おそるおそる目を向けると、槍によって壁にはりつけた長い毛に覆われた巨大な獣がそこにいた。その全身は金色の毛で覆われ、目は燃えるようにつりあがり、鋭い無数の牙を持った口は耳まで裂けているかのようだった。

潮を見た獣は「人間か……」と、つぶやく。その人語を喋る獣に、潮は紫暮がたびたび寺には妖怪退治の槍が祭られていると語っていたことを思い出す。そして妖怪は、潮に槍を抜けと言う。しかし抜いたら、「まずおのれを食らって…」とバカ正直に言う妖怪を、潮が解放するはずはなかった。

まずはとにかく紫暮の話を聞こうと潮は母屋に向かったが、そこには書置きのみがあり、一週間ほど紫暮は帰らないようであった。

そこに、同級生である麻子と真由子が潮の家を訪れる。2人を迎えた潮が見たのは、麻子と真由子にまとわりつく、巨大な昆虫のようなモノの群れだった。しかしそれは麻子と真由子には見えないようで、潮はそれらをどうにかしようと試みる。だが潮には、それらに触れることもできないようだった。

蔵の妖怪によるものと考えた潮は、すぐさま妖怪の下へ走る。そして妖怪に聞いたそれは、扉を開けたことによって漏れ出した妖気に引きつけられた魚妖と呼ばれるモノたちだった。金色の妖怪は言う「おまえにゃ助けられん」、そして「わしならできる」と。

追い詰められた潮は槍を抜く。しかし妖怪は潮を殴り飛ばし、「だれが人間との約束なんて守るんだよ」と潮に告げる。

裏切られたと、潮が激高したそのとき、潮の体に変化が訪れる。その髪はざわざわと腰まで伸び、槍は風が抜けるような音を鳴らした。まるで一匹の妖怪のように変化した潮は、妖怪に向かって飛んだ。

金色の妖怪は、自分のしくじりに気づく。その槍の恐ろしさを、そしてその槍に500年前、壁に縫い付けられたことを。

向かってくる槍から逃げるように蔵から飛び出した妖怪は、約束は守るから勘弁してくれと潮に言う。

そのとき魚妖は、互いに集まり母屋を飲み込むほどに巨大化していた。潮は言う「先にお前がいけ。オレがとどめをさす。」と。

魚妖に向かって飛んだ妖怪は、蛇を形作る魚妖を縦に切り裂き、続いて飛んだ潮は、魚妖を細切れにし、そして魚妖は燃え尽きるように消滅した。

正気に戻った潮は、槍の声を聞いていた。槍は獣の槍と呼ばれ、妖怪を退治するために2000年も前に中国で作られたこと、人の魂を喰ってその力に変えていくこと、そして槍を使う者は獣と化していくことを……。

以下はネタバレ注意。


あらすじ

序章「うしおとらとであうの縁」

寺を自宅とする少年・潮は、槍に縫い付けられた金色の妖怪と出会い、妖怪を解放してしまう。

それは、魚妖という妖怪から潮の幼なじみである麻子と真由子を助けるためだった。魚妖は、金色の妖怪と槍の力により倒されるが、金色の妖怪もまた人間にとって危険な存在だった。

そのため、潮は妖怪を”とら”と名づけ、獣の槍と呼ばれるその槍の力で、人へ危害を加えることの無いよう見張ることに決める。

魚妖:魚の妖怪には数多くの伝承がある。一つには、悪樓(あくる)や赤えいなどの巨大魚で、もう一つには、人魚のような一部が人間のパーツとなっている妖怪だ。おおよそ、魚の妖怪の類例はこの二例で、本作に登場する深海魚のような形態の妖怪が伝わっているかは不明だ。また、魚妖という鰻の怪が描かれた物語も存在するので、これに由来する可能性もある。ちなみに魚妖は、明治の小説家・劇作家である岡本綺堂作。【ウィキペディア:日本の妖怪一覧妖怪うぃき的妖怪図鑑

第一章「石喰い」

その後、潮は学校へ行く時でさえ槍を常に携え、またとらは槍を手放す隙をうかがうように潮に張りつくようになる。

槍の力により不思議な力を持つようになった潮は、とらと共に石喰いという妖怪と戦うことになる。石喰いは古い道具に棲みつき、人を石にして食う化け物で、百足の変化だった。

百足:百足の妖怪については、平安時代の『今昔物語集』や江戸時代の『和漢三才図会』に記述があり、また群馬県や秋田県にも百足の妖怪の言い伝えがあるという。【【妖怪図鑑】 新版TYZ:百足

第二章「絵に棲む鬼」

潮ととらは、怨念を残して死んだ人間の変化・と戦う。そのは、潮の同級生である礼子の父親が変化したものだった。画家であった父親は、妻と弟子に裏切られ、それゆえ礼子に執着し、怨念をその絵に塗りこめ、となった。

:その言葉には様々な意味がある。民俗学では祖霊や地霊を指し、昔話では人を喰う妖怪として語られ、すぐに思い浮かべる獄卒の鬼は仏教系における鬼である。また非人界に棲む全ての存在を鬼ということもあり、人里離れた山奥に住む鍛冶を営む者を指すこともあった。本作における鬼は、人間が憎しみや嫉妬の末に変化したものとしての鬼だが、この用法は能の『般若の面』などに見られる。【ウィキペディア:鬼

第三章「とら街へゆく」

餓眠様と呼ばれる妖怪・飛頭蛮の封印が解かれる場面から始まる。この戦いでは、餓眠様を封印した霊能者・日崎御角と瓜二つの容貌を持っていた真由子もまた巻き込まれ、真由子に槍ととらの存在が明らかになる。

飛頭蛮:中国の『三才図会』などに記述がある、空中を飛び回る頭部だけの妖怪で、中国南部からベトナムに存在したとされている。【ウィキペディア:飛頭蛮

第四章「符咒師 鏢」

妻子を殺した妖怪への復讐に生きる鏢ととらの戦いが描かれる。鏢は妻子を殺し、鏢の右顔に3本の爪痕を残した妖怪を追い、中国から日本を訪れる。それはとらの姿かたちが、鏢の標的に似通っていたからだった。鏢ととらは戦うが、500年間閉じ込められていたとらはその標的ではなかった。そして、それをうしおに知らされた鏢は矛を収めるのだった。

符咒:符咒とは、仙道、つまり仙人になるための修行法の中で行われる呪術のために使用するもの(符)の使用法(術)である。また仙人とは道教において、仙境にて暮らし、仙術をあやつり、不老不死を得た人を指す。【ウィキペディア:仙人

第五章「あやかしの海」

潮とその同級生、そしてとらは海に来ていた。そこで潮は、あやかしという妖怪に父親を殺された少年に出会う。そしてとらもまた、妖怪・海座頭あやかしの退治を請われ、その存在を知る。船さえも飲み込む巨大なあやかしとの戦いは熾烈を極める。しかし、槍に巻かれた布が一部破れたことによって解放された槍の力により、潮たちはあやかしを倒すことに成功するのだった。

あやかしを倒した後、潮は海座頭から、死んだと聞かされた潮の母が生きていること、そしてまた母が妖怪に憎悪の念を抱かれていることを知る。

あやかし:あやかしは、日本における海上の妖怪や怪異の総称で、地域によって怪火を指す言葉であったり、幽霊船のことであったりする。【ウィキペディア:アヤカシ(妖怪)

海座頭:鳥山石燕の『妖怪画集』などに描かれている、琵琶法師のような姿をした杖を持った海上に立つ巨人の妖怪。しかし、どのようなことを行うかなどの伝承はない。【ウィキペディア:海座頭

第六章「伝承」

住職である父親・紫暮に母親のことを聞いた潮は、紫暮の秘密を知る。紫暮は、人間に害を為す妖怪を退治してまわる法力僧だったのだ。そして紫暮は、白面の者を滅するための獣の槍の伝承者として潮を認め、とらを封ずる必要のない妖怪と断じ、潮を北海道・旭川に送り出す。母親のことを潮が知るために。それは、多くの法僧を抱える光覇明宗の意向に逆らうものであったが…。

法力:仏教における仏になるための法、仏法を修行して得られるという不思議な力のこと。空海(弘法大師)による様々な奇跡などはその例である。

第七章「ヤツは空にいる」

北海道へ空路で行くことにした潮は、檜山勇という少女と出会う。勇は、航空機のパイロットであった父親を、空に住む妖怪・に殺されたという少女だった。

勇と潮ととらは飛行機に乗り込む。しかしこのときもまた、その航空機はに狙われることとなるのだった。

潮ととらは、航空自衛隊員である厚沢の協力によりを倒す。そして破損した航空機を、仙台空港に無事着陸させることに成功するのだった。

:江戸時代の佐渡島に出没したという伝承がある、大きな布のような形態をした妖怪で、どんな鋭い刀でも切ることはできないが、一度でもお歯黒をつけた歯なら噛み切ることができると言われている。【ウィキペディア:一反木綿異界倶楽部:妖怪「衾」とは何者なのか

第八章「法力外道」

仙台に降り立った潮ととらは、陸路で旭川に向かうこととする。しかし潮は中学生。紫暮から渡された旅費はあるものの、ホテルに一人で泊まることなどはできず、野宿をしながらの旅となる。

そこに光覇明宗からの刺客、法力僧・凶羅が現れる。凶羅は光覇明宗を破門されて僧であったが、それは仏道を忘れ、妖怪を殺すことにしか興味がなくなったゆえのことだった。そして光覇明宗は、槍を奪いとらを滅殺するために凶羅に白羽の矢を立てたのだった。

第九章「風狂い」

潮ととらは、鎌鼬の兄妹・雷信とかがりに出会う。そして潮に頼む、兄妹の次男である十郎を殺してくれと。それは十郎が、人間を殺すことに憑りつかれてしまったからだった…。

鎌鼬:日本の全土に伝わる妖怪または怪異で、つむじ風に乗って現れ、人を切りつけると言われる。この妖怪の説明は地域によって一様ではないが、本作での鎌鼬は飛騨の丹生川流域に伝わる三悪神(最初の神が人を倒し、次の神が刃物で切り、三番目の神が薬をつけていくため出血がなく、また痛まない)を参照していると考えられる。【ウィキペディア:鎌鼬

第十章「童のいる家」

十郎との戦いの傷を癒すため、雷信とかがりの家に世話になっていた潮ととらは、鷹取小夜という妖怪が見える不思議な少女に出会う。道端で倒れた小夜を助けた潮は、小夜を背負い家に送る。

小夜の家・鷹取家は、オマモリサマと呼ばれる座敷童子を結界に閉じ込めることで、繁栄した一族だった。そして小夜は、結界を張ることのできる白い髪の血筋のもので、力を使い続けるために年若くして死ぬ運命にあった…。

座敷童子:主に岩手県に伝えられる精霊的存在で、座敷や蔵に住むとされる。家人に悪戯を働くとされ、座敷童子が住み着いた家には富をもたらし、去った家には没落や凶事が訪れるとされる。【ウィキペディア:座敷童子

第十一章「一撃の鏡」

ある日、骨董癖を持つ真由子の父が、古い鏡を買ってくる。しかしその鏡は、邪法によって怨念が込められた鏡だった。

真由子の両親が旅行に行ったその日、麻子は真由子の家に泊まりに来ていた。親の居ない家で自由に楽しんでいた二人だったが、突如鏡から現れた巨大な顔に真由子は飲み込まれ、鏡の中に囚われてしまう。

一方、潮は不思議な力により麻子と真由子の危機を知る。雷信とかがりに聞くと、鏡に詳しい妖怪がいるという。その妖怪・雲外鏡の下へ訪れた潮は、真由子は鏡魔に襲われたのだと聞く。そして雲外鏡の助けで、潮ととらは二人を助けに向かう…。

雲外鏡:魔物の正体を明らかにするといわれている伝説上の鏡・照魔鏡を基に、鳥山石燕が創作したと考えられている妖怪。石燕の妖怪画集『百器徒然袋』の中で描写されている。【ウィキペディア:雲外鏡

鏡魔:旧暦8月の十五夜に月明かりのもとで水晶の盆に水を張り、その水で鏡面に怪物の姿を描くと、鏡の中にそれが棲みつく、と記した水木しげるの著書にある鏡の怪物を参照していると思われる。【ウィキペディア:雲外鏡

第十二章「遠野妖怪戦道行」

雷信とかがりの下を離れた潮ととらは、無数の妖怪に襲われる。妖怪・河童に救われる場面もあったが、倒しても倒しても、次々と襲ってくる妖怪に、潮ととらは逃げ惑うしかなかった。そしてそれは、潮の母・日崎須磨子の存在を原因としていた。

白面の者、それは中国で生まれた。それは金色に輝く九尾を持った獣の姿だったが、人間に化けることで、中国の王朝マガダ国を滅ぼした。そして、日本における平安の時代、白面の者は日本に渡ってくる。

日本の妖怪全てが白面の者と戦った。さらには人間も正体を知り、戦い、そして遂には白面の者を追い詰めた。しかし、妖怪たちは障壁に合う。それは、人間の一人の女が張った結界だった。その強力な結界により、妖怪たちは白面の者に手を出せなかった。

そしてその結界は、代を変えて張り続けられ、現在の結界は須磨子によって張られていたのだ。

東日本の妖怪の長・天狗からそれを知らされた潮は、どうすることもできなかった。しかし、潮の真意を知った長は、潮から手を引くことに決める。

しかし暴走した妖怪たちを止めることは天狗にもできなかった。そこで天狗は、妖怪たちを束ねる蛇妖・一鬼ととらの一騎打ちにより、二度と手を出さないよう約束させるのだった…。

河童:日本全土に伝わる妖怪、または伝説上の動物。河童は、人を川に引きずり込んだり、尻子玉と呼ばれる架空の臓器を肛門から抜くなどの伝承があるが、義理堅く、魚や薬の製法を恩返しとして提供する民話も多く存在する。【ウィキペディア:河童

九尾の狐:中国神話の生物で、昔話では悪しき霊的存在、中国王朝の史書では神獣として描かれることもある。また絶世の美女へ化身するされ、の王を誘惑して国を滅亡させた妲己や、(西周)の幽王の后・褒姒、マガダ国の王子の妃になった華陽夫人、御伽草子『玉藻の草紙』に登場する玉藻前は、九尾の狐が化生したものであるという伝承がある。【ウィキペディア:九尾の狐ウィキペディア:褒ジ

殷(中国の王朝):紀元前1600年頃から紀元前1046年まで続いたとされる中国の王朝。王朝最後の王・帝辛(紂王)が、妃の妲己を溺愛し暴政を行ったため滅亡した。【ウィキペディア:殷

周(中国の王朝):殷を倒して開いた王朝で、紀元前1046年から紀元前256年まで続いた。しかし、周の幽王が犬戎に殺された紀元前770年以降は、洛邑(王城・成周)周辺を支配するのみの春秋戦国時代における一小国となった。【ウィキペディア:周

マガダ国:古代インド十六大国の一つで、紀元前7世紀から紀元前4世紀にわたって、ガンジス河流域を支配したいくつかの王朝を指す。紀元前600年頃から紀元前413年までのHaryanka朝、紀元前413年頃から紀元前345年までのシシュナーガ朝、紀元前345年頃から紀元前321年までのナンダ朝をマガダ国と呼ぶ。【ウィキペディア:マガダ国Wikipedia: Magadha

玉藻前:平安時代末期に鳥羽上皇の寵姫であったとされる伝説上の人物で、妖狐の化身とされた。妲己や褒姒、華陽夫人が玉藻前の前歴とされたのは、玉藻前を主題とする能や浄瑠璃の演目『殺生石』が、修正されながら繰り返し演じられた結果であると考えられる。【ウィキペディア:玉藻前ウィキペディア:浄瑠璃

蛇妖:蛇の妖怪は、八岐大蛇、蛇骨婆、蛇帯、濡女、化蛇などが挙げられるが、一鬼は妖怪というよりもむしろ蛇神・夜刀神に近い。夜刀神は、奈良時代に編纂された常陸国(現茨城県)の地誌『常陸国風土記』にその記述があり、頭に角を生やし、体は群棲する蛇であったという。また、その姿を見た者は一族もろとも滅んでしまうと伝えられていた。【ウィキペディア:日本の妖怪一覧ウィキペディア:夜刀神

天狗:天狗は日本の民間信仰において伝承される神や妖怪ともいわれる伝説上の生き物で、一般的に山伏の服装で赤ら顔で鼻が高く、翼があり空中を飛翔するとされる。その由来は、中国における流星だったが、空海等によってもたらされた密教占星術と関係づけられ、また密教の流れを汲む山伏の山岳信仰と相まった上で、魔道に堕ちた山伏が死後に転生するものが天狗とされたようである。【ウィキペディア:天狗ウィキペディア:宿曜道ウィキペディア:山岳信仰

第十三章「おまえは其処で乾いてゆけ」

遠野市から北海道への道程、潮は若い男の二人組・片山と香上に出会う。彼らの車に半ば無理矢理乗り込んだ潮は、陸路で青森へと向かう。

一方、青森では猟奇殺人事件が起こっていた。それは、なまはげの恰好をした者による犯行とされ、犯行前には被害者の家の玄関先に赤い矢を打ち込むと言われていた。

青森に入った潮は、彼らと共に小さな旅館に泊まる。それは若い未亡人の女将が切り盛りする旅館だった。そしてその日、その旅館の玄関先に矢が打ち込まれることになるのだった…。

なまはげ:秋田県の男鹿半島近辺の市町村で、大晦日に行われる伝統的な民俗行事。怠惰や不和を戒めるために、鬼の面と藁でできた蓑であるケラミノを身に着け、出刃包丁を持った村人が家々を訪れ、「悪い子はいねがー」「泣ぐコはいねがー」と暴れる。【ウィキペディア:なまはげ

第十四章「鎮魂海峡」

片山、香上と共に、フェリーで函館へ向かおうとした潮ととらの前に、伏戸歩という女性が現れる。彼女は、夢枕に立つ祖父の「槍を持った少年と、船に乗っておくれ」という言葉ゆえに、潮等と共に函館へのフェリーに乗船する…。

第十五章「汝 歪んだ夜よりきたる」

歩も含めた一行は、片山等のバイクの修理のため、一時函館に滞在することになる。観光気分の潮に退屈したとらは、潮たちと別行動しようと思い立つ。人間を喰いに行こうという目的は内緒で。

化粧品や装飾品を身に着けていない、”うまそうな”親子を見つけたとらだったが、その前に異界の者・吸血鬼が現れる。吸血鬼もとらと同じように、その親子を狙っていたのだった。そしてさらに、吸血鬼を追っていた鏢も現れ、とらと鏢は吸血鬼と戦うことになる…。

吸血鬼:民話や伝説に登場する、生き血を吸い栄養源とする不死の存在。本作や一般に知られる吸血鬼は東ヨーロッパ起源のヴァンパイアをモデルとしているが、古代ギリシアのラミアーやエンプーサ、古代バビロニアのアフカル、テッサリアの巫女、ブルーカ(ポルトガル)、ドルド(ドイツ)、アラビアのグール、中国のキョンシー等、吸血鬼と呼ばれる存在の伝承は世界各地にある。【ウィキペディア:吸血鬼

第十六章「湖の護り神」

洞爺湖に着いた一行は、湖岸で宿を取る。翌日には、歩が帰るということもあり、その日の宿は立派なホテルであった。

翌日、洞爺湖の中島を周回する船に乗った一行は、巨大な徳利が湖に浮かぶのを目にする。その瞬間、片山、香上、歩は徳利に吸い込まれ、その直後、翅を持った巨大な蛇神・オヤウカムイに潮ととらは襲われる。

一方、徳利に吸い込まれた片山と香上は、土地神・サンピタラカムイの前にいた。サンピタラカムイは、オヤウカムイを退治し、湖の護り神となれ、と片山、香川に告げる。そして嫁も用意したと告げられる片山等の前には、歩とホテルで出会った仁礼裕美の姿があった…。

オヤウカムイ:アイヌに伝わる翼を持った蛇神。酷い悪臭を放つ毒蛇で、人間は近づいただけで死ぬという伝承がある。【ウィキペディア:ホヤウカムイ

サンピタラカムイ:アイヌに伝わる川の神で、若者二人に、飲めば神通力が得られる神酒を授け、洞爺湖の護り神とした、という伝承がある。また、洞爺湖の中島は、このときの神酒の徳利であるという。【zackyChannel:アイヌ伝説より「洞爺湖の神と中島」

第十七章「霧がくる」

片山等と別れた潮は、子供が手放してしまった風船を取ってあげた拍子に、疲れが溜まっていたせいか気を失ってしまう。気が付くとそこは登別へと向かうバスの上で、潮を心配した子供の母親が介抱してくれたのだった。

日も沈み、あたりも暗くなってきたとき、バスは濃霧に覆われる。そして、その粘りつくような霧は、バスの前方を走る車に侵入し、人を溶かし取り込んでしまう。

それは、シャムナと呼ばれる妖怪だった。過去に遭遇したことのあるとらは、シャムナは火を嫌がるだけで、何も効かないことを知っていた。そして、獣の槍でさえシャムナにダメージを与えることはできなかった。

バスを逃がした潮は、空を飛ぶとらにつかまり、その場から逃走する。しかしそのとき、激しい力でとらを引き付けるものがあった。それは冥界の門と呼ばれる、妖怪や魂を吸い込む別の世界への入り口だった…。

シャムナ:この妖怪の由来は不明だが、その形態は人の顔のような形で浮かび上がる煙の妖怪・煙々羅と類似している。【ウィキペディア:煙々羅

冥界の門:あの世、冥界への入り口とされるものは、日本各地に伝承がある。最も有名な『古事記』における黄泉の国の入り口は、東出雲町の黄泉比良坂にあると伝えられ、京都の六道珍皇寺には、冥界へ続く井戸があるという伝承がある。またアイヌにも、あの世への入り口の言い伝えが豊富に存在する。【ウィキペディア:黄泉比良坂ウィキペディア:六道珍皇寺青空文庫:あの世の入口――いわゆる地獄穴について――

第十八章「婢妖追跡〜伝承者」

獣の槍を使い続けた潮は、戦闘が終わるたびに全身の激しい痛みを感じるようになっていた。そしてこの時も、潮は気を失ってしまう。

そんな潮に、とらはさもいい考えが浮かんだと、潮を抱えトラックに勝手に乗り込む。しかしそのついた先はえりも岬で、旭川とは逆方向であった。

そこで潮は、関守日輪と秋葉流に出会う。彼らは光覇明宗が育てた獣の槍の伝承候補者だった。そして、関守日輪は只の少年が獣の槍を持つことに憤りを覚え、秋葉流はとらが潮を殺さないことに興味を持っていた。

一方その頃、白面の者は獣の槍が世に出たことに気づいていた。そして、獣の槍を破壊するため婢妖という自己の分身を放ち、獣の槍を追っていたのだった…。

婢妖:本作品独自の妖怪と考えられる白面の者の使い魔。また、婢という言葉は、召使、下僕という意味を表す。

第十九章「畜生からくり」

潮が旭川へ向かっていたそのころ、麻子と真由子は町に新しくできた人形博物館に行くことになる。しかしそこには、人間の心臓を動力として動く、人を殺す人形が棲みついていたのだった…。

第二十章「追撃の交差〜伝承者」

秋葉と共に旭川へ向かう潮は、もう一人の伝承候補者・杜綱悟の急襲に遭う。杜綱は、陰陽の気を操り、式神を使役するほどの力を持っていたが、婢妖に肉体を乗っ取られていたのだ。

杜綱を助ける術は、その体に侵入し婢妖を殲滅するしかなかった。潮は雲外鏡を通して、長の力を借り、妖怪・イズナと共に杜綱の体内に進入する。

そして潮たちは、無数の婢妖と共に、疫鬼、血袴なる妖怪と戦うことになるのだった…。

陰陽:陰陽とは本来、闇に対する光、水に対する火のような森羅万象の事物を陰と陽に分類する思想であり、錬金術のような前科学的考え方のことを指す。日本で知られる陰陽道は、これに万物は木・火・土・金・水の五行からなるとする五行思想、さらには道教や密教の呪いや祭礼に関係する術、占星術や風水説や神道などが組み合わされ、日本で独自に発展したものである。【ウィキペディア:陰陽ウィキペディア:陰陽道

式神:陰陽師が使役する神(日本で言う八百万の神)や妖怪のこと。【ウィキペディア:式神

イズナ(飯綱):管狐とも言う、狐やイタチのような形態を持つ妖怪または憑き物の一種。伝承においては、イズナを使役する飯綱使いがおり、予言をしたり、他人に憑けて病を引き起こしたりするという。【ウィキペディア:管狐

疫鬼:疫病をはやらせると言われる妖怪。【ウィキペディア:疫鬼

第二十一章「変貌」

杜綱を救うことに成功した潮だったが、獣の槍の力をあまりにも使い過ぎた潮は、槍に取り込まれ獣と化す。それはもはや、遮るものを滅するだけの妖怪であった。

一方そのころ、光覇明宗総本山、羽生礼子、檜山勇、鷹取小夜、井上真由子、中村麻子の下に一体の幽霊が現れる。そして、ジエメイと名乗るその霊は告げる。獣に変わっていく潮を戻すために、ある櫛で潮の髪を梳って欲しいと。獣と化した潮は、潮に縁のある少女が潮の身を案じ、髪をすいたときだけ人間に戻れるというのだ。

そして皆は旭川の神居古潭へ向かう。白面の者を滅するためだけの存在になった潮は、白面の者の欠片がある神居古潭に引き寄せられるのだった。

潮が獣となったことに白面の者もまた気づいていた。そしてそれは、獣の槍を破壊する好機であり、そのために、白面の者は何千万とも言えぬ婢妖を送り込む。

旭川には、獣の槍の伝承者たち、潮の父・紫暮、そして鏢等もまた集まった。婢妖から獣の槍を守り、少女が髪をすくための間を作るために…。

神居古潭:北海道旭川市にある地区の名で、「神の住む場所」という意味を持つアイヌ語の音意訳。また、アイヌに害をなす悪神と山の神の争いの伝承がある。【ウィキペディア:神居古潭

第二十二章「時逆の妖」

少女たちに救われた潮は、とらと共に神居古潭の洞に入っていく。そこには、結界に閉じ込められた白面の者の一部と、時逆という妖怪があった。

ここに白面の者の一部が封じられているのは、獣の槍を呼び寄せるためだった。そして時逆は、獣の槍を使う者へ獣の槍がいかにして生まれたのかを伝えるためだけに、そこにいた。

時逆は、潮ととらを2290年前の中国に飛ばす。そこは、白面の者に滅ぼされることとなる国であり、滅ぼされる前の時であった。

そこで潮は、鍛冶を営む一家と出会う。そして、この家の子の一人がジエメイであり、もう一人が獣の槍を作ることとなるギリョウであった。そして潮とこの兄妹は、白面の者によって、兄妹の両親が殺され、国が滅ぼされていくのを為す術もなく見ることとなる。

そして、残された兄妹は白面の者を滅するために命を捧げる。ジエメイは鉄塊となり、ギリョウはその鉄を鍛える過程で槍に肉体を飲まれていった…。

こうしてギリョウは獣の槍そのものとなり、ジエメイは1400年の時を超えて日本に転生し、ゆきという女に生まれ変わる。

そこでジエメイは再び白面の者と相まみえ、陰陽師・安倍泰近やその他の人間たち、そして日本の妖怪たちと白面の者と戦い、追い詰める。

しかし白面の者が逃げた先、そこは日本という島国を支える要ともいうべき場所であり、要に深く体をさしこんだ白面が再び飛び去るとき、日本は大海に没するという場所であった。

それゆえに、ゆきはそこに結界を張らざるを得なかった、白面を起こさぬための結界を…。

そして潮の母・須磨子は、この結界を張り続けるために選ばれた、ゆきの子孫の一人だったのだ…。

春秋戦国時代:2290年前の中国、およそ紀元前290年の中国は戦国時代にあり、戦国の七雄、秦 楚 斉 燕 趙 魏 韓の七大国が中国を支配していた。【ウィキペディア:戦国時代(中国)

安倍泰近:平安末期の貴族、陰陽師。当代屈指の陰陽師であり、占いで7割当てれば神とされていた当時、7、8割の的中率を誇ったという。【ウィキペディア:安倍泰親

第二十三章「暁に雪消え果てず」

白面の者、獣の槍、そして潮の母の過去を知った潮は、自身の白面の者と戦う運命を受け入れるのだった…。

神居古潭の洞を後にした潮は、紫暮と共に陸路東京へ向かう。しかし札幌は、凍てつく吹雪に覆われ交通は完全に止まっていた。

吹雪の中、観光がてらぶらついていた潮ととらは、時計台で悲しみに叫ぶ雪女に出会う。その札幌を覆う吹雪は、その雪女ゆえのことだったのである。

その吹雪、そして悲しみは、人間に恋をしてしまったゆえのものだった。しかし潮は、その悲しみに暮れる雪女を後に旅立つことなど出来なかったのであった…。

雪女:雪女と言えば小泉八雲の『怪談』における、雪女に父親を殺された男が、後に夫婦になった女にその雪女のことを語り、約束を違えたことにより雪女だった妻を失ってしまう物語が有名である。雪女の伝承は様々なパターンが存在するが、上記の『怪談』のようなパターンは、雪深い地方に多く、雪に閉ざされた孤独な男たちの幻想譚から起こったのではとの説がある。【ウィキペディア:雪女

第二十四章「獣の槍を手放す潮」


第二十五章「時限鉄道」


第二十六章「HIGH SPEED EATER」


第二十七章「四人目のキリオ」


第二十八章「檄召〜獣の槍破壊のこと」


第二十九章「麻子の運動会」


第三十章「愚か者は宴に集う」


第三十一章「ブランコをこいだ日」


第三十二章「うしおととらの一年事始め」


第三十三章「外堂の印」


第三十四章「西の国・妖大戦」


第三十五章「満月」


第三十六章「かがりととらおつかいに」


第三十七章「TATARI BREAKER」


第三十八章「あの眸は空を映していた」


第三十九章「業鬼」


前編・後編


第四十章「記録者の独白」


第四十一章「獣群復活」


第四十二章「三日月の夜」


第四十三章「風が吹く前」


第四十四章「季節石化」


第四十五章「雨に現れ、雨に消え」


第四十六章「不帰の旅」


第四十七章「混沌の海へ」


第四十八章「雷鳴の海」


第四十九章「獣の槍破壊」


第五十章「とら」


第五十一章「降下停止、浮上」


第五十二章「鳴動天 開門す」


第五十三章「約束の夜へ」


前編・後編


第五十四章「太陽に 命 とどくまで」


最終章「うしおととら」


うしおととら外伝


妖今昔物語


桃影抄〜符咒師・鏢


里に降る雨


雷の舞


プレゼント


永夜黎明




感想

日本を舞台とした妖怪ものバトルファンタジーの筆頭と言える名作。

ただ、潮というキャラクターの単純さに心の浅さを感じる場面が多々ある。しかしだからこそ、思い悩む者達を潮は惹きつけるのだ、という納得感もまたある。

とは言え、本作品の人間ドラマが薄いわけでは決してない。悪しき道へ進んだ者や、憎しみに囚われてしまった者達の描写は秀逸であるし、人間臭い妖怪たちの個性、そして辿ってきた道は、ひとつひとつが心に沁みる物語である。

特に、潮の父親・紫暮の立場を超えた父親としての、また人間としての生き方は、人間味溢れながらも理知的で、尊敬に値する。

そしてまた、全てが明らかになったときのとらという存在の運命の分厚さと、永遠とも思えるほどの歴史は、この物語が”とら”というモノの歴史の中の”潮”を切り取ったものでしかない、といえるほど深い。

バトルものとしては、妖怪という優良コンテンツを題材にしているがゆえの、敵キャラクターのスペクトルの広さや形態の面白さが魅力だが、不満も少しある。

週毎に発表される少年バトル漫画はどれも共通の不備を抱えるが、それは戦闘能力、強さの一貫性がだんだんとグズグズになってくることである。あれほどてこずった敵が、次の日には片手であしらえるほど弱くなっているというアレである。
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