寄生獣 作者:岩明均 掲載:モーニングオープン増刊、月刊アフタヌーン 期間:1988-1995 巻数:全10巻 評価:★★★★★ Amazonで詳細を見る |
ごく普通の高校生であった新一と新一に寄生した寄生生物との共生生活、またその寄生生物に対峙する人間社会を描いたSF漫画である。
あらすじ
ある日地球に舞い降りてきた寄生生物は、人間の脳を乗っ取り、人間を捕食するという本能を持っていた。形態を自在に変化させることができ、学習能力の高い寄生生物は、人間とその社会を直ちに把握し、人間を食い荒らしながらも明るみになることなく人間社会に溶け込んでいった。
しかし新一は、寄生時の抵抗により脳を支配されず右手を奪われるのみで済んだために、右腕に寄生した生物(ミギーと名付けられる)との共生を余儀なくされることとなる…。
感想
この世に存在する最も価値ある漫画の一つ。人間が容赦なく破壊されるシーンや人体がバラバラになっていく描写などがリアルに描かれていてスプラッタ的要素も多分にある。しかし人間の非合理性ゆえの残酷さや、人間が捕食対象になった場合の社会が的確に描かれ、ある種の哲学的問いに一つの答えを出している作品とも言えるかも知れない。印象的なシーンとして、合理性のみで行動する寄生生物と同化しつつあった新一の行動がある。新一は自動車に轢かれた子犬を息絶えるまで抱きしめていたが、子犬が死んだ後すぐに犬は物になったとして公園のゴミ箱に捨てる。一緒にいた彼女の反応により、新一はその後すぐに犬を土に埋めるのだが、自分はこのシーンが十何年も忘れられない。
さらに私見としては、自己以外と如何に接していくかという道徳に関して、非合理性を内包する人間の脳構造では、完成された道徳は有り得ないことを本作によって気付かされたように思える。そして、真に道徳的な頂点は合理性でのみ行動する生物のみしか到達できないことを感じた。しかし、合理的にしか生起しえないこの地球上で、何故に人間という非合理なシステムが支配的存在なのか不思議である。たぶん確率的な揺らぎによる一時的な繁栄に過ぎないだろうけれども・・・。
また、本作品はアカデミズム界の評価も高く、文芸評論家の加藤典洋、哲学者の鶴見俊輔や竹田青嗣が本作を絶賛したとの記事がある。【早稲田大学週刊広報紙『早稲田ウィークリー』】