デスレス 六道神士作

デスレス
作者:六道神士
掲載:ヤングキング、月刊ヤングキング、月刊ヤングキングアワーズGH
期間:2010-2016
巻数:全12巻
評価:★★★★☆
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六道神士作の『デスレス』は、ヤングキングで2010年から2016年まで連載していた伝奇ミステリー漫画である。

人の寿命を喰らう二人の人外と、それさえ飲み込んでしまう主人公・水城。そして水城の育て親である、強烈なキャラクターの老いた三兄弟。全てが重要なファクターとして緻密にまとめ上げられる、秀逸な伝奇物語。


導入

大学生の宮森水城は、どうみてもカタギではない男二人組に土地を売れと詰め寄られていた。

そこに現れたのは、着物を着た美しい女。スザクと名乗ったその女は、二人組の片割れをポイと投げ飛ばし、家人に用があると水城に言う。

様子を伺っていたもう一人の男は、何かを察知したのか、慇懃な調子で一度失礼しますと自身らの車に乗り込む。

昼食後にまた参ります、と男たちが車を出したその時、大きい音と共に女が跳ね飛ばされ、車が停まる。

スザクは轢かれた女を見やり、
幸い、このツレは鈍くて頑丈な上に記憶力というものが無くてのう
と、このことはなかったことにすると暗に男を牽制し、今日一日ここに一切関わらぬことを約束させ、この地を離れるよう男たちに促す。

完全に車が見えなくなり、よいぞカマドとスザクが言ったそのとき、倒れていた女が何事もなかったように起き上がる。

水城はカマドというその女を心配したものの、スザクのごとく美しいその女には、傷一つないようだった。

こちらの住まいにはぬしひとりか…と尋ねるスザクに、いつもは祖父母がと返した水城だったが、特に興味もなさそうに、二人はその場を立ち去っていった…。

その日の夕時、水城は灯油の匂いに気づき外に出る。そこには、二人組の片割れのみが居り、まさに家に火をつけようとしていたところであった。

竹刀を持ち、立ち去ることを促した水城だったが、激昂した男はナイフを出し、水城に向かってくる。

竹刀を男に打ち付けた水城だったが、男の勢いは止められず、胸を刺され倒れてしまう…。

ぼんやりとした意識の中、スザクの声が聞こえ、徐々に水城は覚醒していく。目の前のスザクの顔がはっきりしてきたそのとき、水城は自分がスザクと裸で抱き合うように肌を重ねていることに気づく。

生娘であった水城は、その状況に抵抗したが、凄まじいスザクの力に押さえつけられ、逃げること叶わず、ぬしのしだをもらうと言うスザクに為す術もなかった。

そうしている水城とスザクの隣では、カマドが水城を刺した男と肌を重ね、男から何かを吸い取っていた。そして男は、水城の目の前で気を失ったまま老いて朽ち果てていく。

スザクは、終わるはずだったぬしを救ったのは吾、ゆえにお前が死ぬまでの時(しだ)も吾のもの、と水城に告げる。

男のように自分もここで朽ちていくのかと水城が恐怖を感じたその時、
待て待てい!
何だこれは!
逆に吾を…!
というスザクの声と共に、水城は再び気を失う…。

意識が戻り、助かったと思った水城に、あやうく食われるところだったではないかというスザクの声が聴こえる。

そんな趣味はない、出て行ってくださいと怒鳴る水城がガラスに映る自分の姿を見たそこには、水城ともスザクともいえない、その2つを合わせたような別の女の姿があった。

水城とスザクは融合していたのである。水城はただ混乱するのみであった。しだを喰う人ならざる者であったスザクでさえも、このようになった理由がわからなかった。

そしてスザクは、むしろ自分が喰われてしまったようだと判断し、解放してくれと水城に請う。しかし、水城に自分がスザクを喰った自覚はなく、ただスザクが自分の内にあり、その声が聞こえるという認識があるのみであった。

その刹那、水城は斬撃を受ける…。

普段ではあり得ない動きで、それを避けた水城は自身の身内が帰ってきたことを知る。
怪しげな女賊共!
ここを我が家としっての狼藉か!
それは水城の大叔父・武蔵であり、後ろには祖母・ミカサと大叔父・延寿の姿があった…。

以下はネタバレ注意。


あらすじ

第一巻

大学生である宮森水城は、スザクとカマドという二人の女と出会ったその日、宮森家の土地を狙う男に刺され死ぬこととなる。

しかしすぐに水城は甦る。スザクの手によって。スザクとカマドは、人の時(しだ)を与え、喰らうことができる人ならざる者だったのだ。

スザクとカマドは何百年も生き続ける人外であった。人と肌を合わせることにより、しだを奪うことができた。しだとは人の寿命のようなものを指し、奪われた人間は老い、そして朽ち果てた。

そしてこの時も、スザクは殺された水城を蘇らせ、死ぬだけであった水城を有効利用しようとしたのだった。

しかしその目論見は失敗する。しだを奪おうとしたスザクを逆に水城が吸収してしまったのだ。

しかもそれは、スザクが人からしだを奪うのとは具合が異なっていた。スザクやカマドがしだを奪うとき、それはまさしく寿命のみであった。しかし水城は、スザクを文字通り吸収していた。

その姿形は、水城とスザクを合わせて割ったようなものとなり、取り込まれたスザクの意識は水城の内だけにあった。

水城がスザクを取り込んだ直後、水城の身内である養母の祖母・ミカサとその兄弟である武蔵、延寿が帰ってくる。

しかしそこには姿形の異なる水城とカマド。始めは盗人かと、武蔵が斬りつけてきたが、ミカサが水城であることを認識し、その場はおさめられる。

一息ついたところで、一堂は集まり、状況が確認され、今後の行く末が話し合われた。

スザクやカマドが如何なるモノかについては、物心ついた時からしだを喰ってきたという以上の事はスザクもカマドもわからず、ましてや水城のようにスザクを取り込むような存在については何も知らないようだった。

ミカサは巫女の血筋であった故に、容姿の異なる水城を認識できたが、このままでいいはずはなく、いかにすればスザクを切り離せるか探す必要があった。

また宮森家は、今は廃れたが古くは神社であったので、水城のような存在についての伝承や文献がないか、調査することが確認された。

こうして、カマドは宮森家に居着くこととなり、水城はスザクを切り離せるまで今の姿のまま生活を送ることとなる。

しかしさらに大きな問題が起こる。他のしだを喰らうものに水城が襲われ、しだの飢餓状態にあった水城が消滅しそうになったのだ。この時は、カマドにしだを分けてもらうことで事なきを得たが、水城自身でしだを喰えるようにする必要もあった。

しかし臆病な水城にとっては、人様から寿命を奪うなど考えもできないことであった…。

しだを喰うか消滅するか、どちらとも決められず流されるまま時を過ごしていた水城に決定的な事態が起こる。

水城の大学の学友である松川小鳥が、しだを喰うものに殺されたのである…。

第弐巻

水城は考えることなく、松川に自分のしだを注ぎ込んだ。しかし、しだを貯めていない水城は、同時に消滅の危機にあった。

その刹那、スザクを取り込んだときの力が水城に働き水城は消滅を免れる。松川を救うこと、そして自己の消滅の恐怖にとらわれていた水城には、それに気づいていなかった。しかし、スザクは水城の中でそれを見ていた。

水城は木々のしだを喰ったのである…。

松川を助けることに成功した水城は、松川を殺した者と相対することを決める。

次の夜、水城はその者を誘うべく、一人街へ出る。かくして、その者はすぐに現れる。少年のようなその者は不空とだけいった。

したを喰う者としての戦いは、水城の劣勢で進んだ。しかし、水城が不空に喰われんとしたその時、水城は不空もまたその内に取り込んでしまったのである。

これはスザクの想定通りの結果であった。取り込まれた不空は、水城の内で放心状態にあった。しかし言語が違うのか、意思疎通はスザクとも水城ともできなかった。

不空を取り込んだことにより、水城の体にも異変が起こっていた。水城に男根が生えていたのである。それは不空の体に合った、子供のそれであったが…。


感想

情報量が多い上に、エロティックな描写も多いという序盤に少し戸惑うが、ストーリーが進行するにつれ、抜群に面白くなってくる。

また、知的に描写されているキャラクターが、本当に利口だというのも漫画には珍しい。

ほとんどの漫画では、知的なキャラクターとして登場しているにもかかわらず、謎を謎のままにするためなどの演出上の都合で、浅はかな言動を示すことがままある。

しかし本作の知的なキャラクターは、与えられた情報を的確に整理し、思考し、最善の道を見つけ、行動していく。それでも、持っている情報や手駒の差により、苦境や危機に陥ってしまう。

そういった、高度な意味での理屈が通った作品であると思う。
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