ナナのリテラシー 作者:鈴木みそ 掲載:コミックビーム 期間:2014-2015 巻数:全3巻 評価:★★★★☆ Amazonで詳細を見る |
出版業界と漫画家の現状分析から今後のあるべき姿、ゲーム業界の実態や電子書籍の未来などが、女子高生・ナナのコンサルティング会社での職業訓練を通して描かれる。中でも出版業界と漫画家、そして電子書籍に関する事柄は、極めて具体的で納得感があり、またエキサイティングである。
あらすじ
1巻あらすじ
優秀すぎる故にちょっと冷めた感じの高校生・許斐七海(このみななみ)は、天才・山田仁五郎をトップとするコンサルティング会社に職場体験に訪れる。そこで七海は、出版会社と漫画家のコンサルティングという2つの事例を目にする。
出版会社には、出版不況を乗り切るため、編集者という調整のプロを独立させてエージェント化し、会社を小規模にせよと説く。
漫画家に対しては、漫画業界の構造的問題ゆえの極端な2極化の進行を伝え、そしてそこで生き抜いて行くためには電子書籍を利用した出版会社からの独立が必要であると説く。
七海は、一人の漫画家をこのレールに乗せて成功させるため、重要な役割を果たし、そして実現していく…。
コンサルティング:企業や行政などを顧客とし、顧客の現状把握から、問題点を炙り出し、その問題の原因を分析して、解決案を提示する業務である。【ウィキペディア:コンサルティング】
エージェント:様々な業務を他者の代わりに遂行する、個人・業者・組織のことで、日本語で言う代理人・代理業者、仲介業者。プロ野球選手が年俸を交渉する代理人を立てるのは、よく知られている。
2巻あらすじ
さらに続く2巻は、ゲーム業界編。少なくとも1億、アメリカの大手だと100億という資金をもって制作される据え置き型ゲーム機のゲームソフト。この世界では合衆連行が進み、規模の大きなメーカーのみが生き残れる業界と化している。
それに対して携帯ゲームは、中小のソフトハウスでも十分成功可能な市場である。しかしその実、ゲーム内容は極めて単純で、その収益を生んでいるのもガチャなどのユーザを中毒化させる手法だ。
この現状の中で、ゲームクリエイターはどのような形で創造性を働かせ、作品を作っていくべきなのか、新旧のゲームクリエイターの対立図式により語られていく。
ソフトハウス:ソフトウェアを開発、販売する企業のこと。
ガチャ:ソーシャルゲームのゲーム内アイテムを課金して取得する方法。金と運でレアなアイテムが手に入るというギャンブル性が、ユーザの射幸心を煽ると問題になった。
3巻あらすじ
1巻に続く形の漫画業界と電子書籍の今後、そして漫画におけるワイセツと表現の自由についての物語が展開する。序盤は、大手出版社が電子書籍業界になだれ込んできた現在、独立した漫画家はいかにしてそこに埋もれずに収益を維持すればいいのかという問題提起が為される。
続いて、漫画における表現の自由の問題を、中高生向けの恋愛物を手掛ける漫画家を中心として話が展開される。
分析
本作品内では、漫画は自由であるべきという立ち位置である。しかし、見たくない人には見えないようにするゾーニングの重要性も強調されている。また、「なぜ漫画に対する児童ポルノ法が定期的に上がってくるのか?」という疑問を、日本におけるルールの作り方と運用の不備により説明している。
それは道路の制限速度のように、守れっこないほどの厳しいルールを作って、取り締まり実績が必要な時に恣意的に運用するという、よく聞く事例と一緒だと言う。
確かに、ライブドア事件などもこれに似た構造を持っていた。厳し過ぎる、もしくは線引の難しい法律は、おおよそゆるく運用される。しかし一旦、何か問題が起きたり、マスメディアに取り上げられたりすると、手のひらを返したように法律を適用する。
つまりこれは、権力者が恣意的に逮捕者を選択できるに等しい。
そして児童ポルノ法では、これが善意で行われているのが恐ろしいところだと主張する。
確かに、これを問題にする人は興味がないし、目にしないにも関わらず、「こんなものが、日本に存在するなんてけしからん!」と言って、これを取り上げる。
これを聞くと、英語圏における次の格言を思いだす。
The road to hell is paved with good intentions. 【Wikipedia: The road to hell is paved with good intentions】「地獄への道は善意で舗装されている」と直訳できるこの意味は、「こうしたらあの人または皆が幸せになるだろうと思い善意だけで行ったことは、大体において対象や皆を悪い状況に陥れる。」という身も蓋もない真実である。
ゾーニング:性描写や暴力描写を含む作品に、R-18などの年齢指定を設定し、売り場のすみ分けや販売拒否を行ったりすること。
児童ポルノ法:児童の売買や、その性的な行為、性的な部位が顕な写真や表現などを取り締まった法律で、2014年6月18日の改正により、児童ポルノの単純所持も処罰対象となったが、漫画家や出版社の異論により漫画やアニメなどの架空の表現は対象外となった。【ハフィントンポスト:児童ポルノ禁止法が改正、単純所持に罰則 漫画・アニメは除外、ハフィントンポスト:児童ポルノ禁止法改正案から漫画・アニメの条項を削除へ 単純所持禁止は不可避か?】
The road to hell is paved with good intentions: 12世紀の神学者聖ベルナールによる言葉で、ローマのカエサルも同様な格言を残している。
スポンサーリンク