氷菓 米澤穂信原作 タスクオーナ作画 西屋太志キャラクター原案

氷菓
原作:米澤穂信
作画:タスクオーナ
キャラクター原案:西屋太志
掲載:月間少年エース
期間:2012-
巻数:既刊10巻
評価:★★★★☆
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米澤穂信原作の推理小説である「古典部」シリーズ、『氷菓』、『愚者のエンドロール』、『クドリャフカの順番』のタスクオーナ作画によるコミカライズ版で、2012年から月刊少年エースで連載中。

高校の古典部に入部した男女4人が、高校を中心として様々な謎を解き明かしていく緩めのミステリーマンガ。

おおよそ物語は、好奇心の塊・千反田えるが問題を提起し、自称データベース・福部里志が提供する情報を下に、まとめ役的・伊原摩耶花が場を仕切り、探偵役・折木奉太郎が推論し解決する、という具合に進行する。


導入

やらなくてもいいことはやらない
やらなくてはいけないことなら手短に
そんな省エネ的スタイルの折木奉太郎は、高校に入学したての今でさえ、勉強にもスポーツにも、恋愛でさえも特にやる気はなかった。

しかし、気ままに海外を旅する姉・供恵からの手紙にあった、古典部を存続させるために古典部に入りなさいという暗に強制的な勧めに、奉太郎はしぶしぶながらも古典部に入部することにしたのだった。

そんな経緯を聞いた中学以来の友人・福部里志は奉太郎に言う。古典部は部員がいないのだから部室は独り占めじゃないか、学校の中にプライベートルームがあるって結構いいもんだよと。

悪くないなと思った奉太郎は、里志と別れ、部室に向かう。職員室から鍵を借り、人に聞きながら部室まで歩く。たどり着いたのは、高校の最辺境ともいうべき端の端の一教室。

この移動距離こそ浪費だなと思いつつ鍵を開けると、そこには瞳が大きく髪が長い楚々とした一人の少女が立っていた。

こんにちは
あなたって古典部だったんですが
折木さん
自分を知るその女子に奉太郎は全く覚えがなかった。しかしその女子は、自身を千反田えると名乗り、あなたはB組だから、A組の私を知っているでしょうという空気で奉太郎を凍りつかせる。

そして奉太郎は思い出す。そういえば、音楽の授業は一回だけA組と合同でやったことがあるなと…。

そう伝えると、えるはそのとおり、正解ですと言わんばかりに応じる。もちろん奉太郎は、一回合同授業をやっただけの生徒の名前など覚えてはいなかったが…。

それはそうと、なぜここに居るのかとえるに尋ねた奉太郎は、思わぬえるの返答に愕然とする。えるは、古典部に入部してしまったのだ。奉太郎の自分だけのプライベート空間の夢はここで早くも霧散してしまう。

一身上の都合がありまして
奉太郎が古典部に入部した理由を聞くと、えるはそう答えた。何はともあれ、古典部が存続するなら自分は必要ないと思い、部室を出ていこうとしたその時、わたし戸締まりできませんよ、とえるは奉太郎を引き止めた。

どうやらえるが部室に来た時は部室に鍵は掛かっていなかったらしい。しかし奉太郎は鍵を開けて入ってきたし、そのとき鍵は掛かっていた。

二人が妙な雰囲気になったその時、二人を扉から覗き見る里志に気づく。盗み聞きかと、奉太郎は皮肉ったが、里志は外から二人を見かけ、興味本位で立ち寄ったらしい。木石のごとき奉太郎が女子と仲良くしているなんてと思って…。

里志とえるの紹介が済み、話は再び部室の鍵の問題に戻る。面倒だった奉太郎は、えるが部室に入った後に鍵を閉め、それを忘れたということでいいだろうと言う。しかし里志は、この高校のドアは全て中から鍵を掛けられないんだと、妙な知識を披露する。

そんな反論にも、なにかの間違いだろうと、帰ろうとした奉太郎の腕をつかみ、えるは奉太郎を見つめ言った。
折木さんも考えて下さい!
わたし気になります

その何か抗えない、好奇心を湛えた大きな瞳に見つめられながら、そこを去ることは奉太郎にはできなかった…。


あらすじ

氷菓編

高校に入学した折木奉太郎は、中学に続いて高校でも省エネを信条とした生活を送るつもりだった。しかし、姉・供恵からの要請により、供恵が在籍していた古典部の存続のために古典部に入部することとなる。

古典部に部員はいなかったため、奉太郎は気楽に考えていた。しかしとき同じくして古典部に入部した千反田えるとの出会いにより、奉太郎の安寧と省エネの日々に終止符が打たれる。

それは、部室の鍵の謎を奉太郎が解き明かしてしまったからだった。省エネ体質の奉太郎は、何か疑問が湧き上がったとしても、その原因を突き止めようと思うことなど普段はなかった。

しかしえるは違った。そんなとき、えるは好奇心をいっぱいにして奉太郎に言うのだった。

わたしは気になりますと…。

さらに、奉太郎の中学時代からの友人・福部里志もまた古典部の一員となる。里志は自らを「データベース」と称し、部室の鍵の謎の件でも情報を提供する役割を果たす。

里志を追うように、漫研所属の伊原摩耶花もまた古典部に入部する。奉太郎、里志と中学を同じくする彼女は、昔から里志に惚れていたのだ。里志はなぜかそれをずっとはぐらかしていたが…。

こうして、四人の一年生から成る古典部で、奉太郎はえるの疑問を解決する探偵役となる。

部室の鍵の謎に続き、えるが疑問に思った「女郎蜘蛛の会」の謎、「愛なき愛読書」の謎などを解き明かし続けた奉太郎に、えるから相談の電話が掛かってくる。二人だけで折り入って話したいことがあると…。

日曜日の喫茶店。そこでえるは奉太郎に願い出る。自分がむかし伯父から聞いたことを思い出させてほしいと…。

それは古典部にまつわることで、幼少のえるが伯父にその話を聞き、恐ろしかったのか、悲しかったのか大泣きしたというのだ。

そして、それは「氷菓」と題された古典部の文集に関わることであった…。

愚者のエンドロール編


クドリャフカの順番編




感想

ミステリー小説のコミカライズは、食わず嫌いしてましたが、いい意味で裏切られました。面白かったです。

作画がすっきりとしているので、大量のセリフがあっても読みずらさは感じませんでした。また、解決に必要な情報も余さずきっちり出されていますし、その情報もくどくなることなく説明されています。

ホラーやファンタジー要素のない作品なので、地味になりそうな気配もありますが、高校を舞台にしている上、漫画的なキャラクターも多く登場し、華やかさも申し分ありませんでした。

もちろん、小説にありがちなペダンティックにしゃべり倒すキャラクターも登場し、多少違和感は感じるものの、文字に埋め尽くされたコマでさえ楽しく読めました。


小説版

氷菓
作者:米澤穂信
出版:角川書店
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