姉なるもの 飯田ぽち。作

姉なるもの
作者:飯田ぽち。
掲載:電撃G’sコミック
期間:2016-
巻数:既刊1巻
評価:★★★★☆
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飯田ぽち。作の『姉なるもの』は、電撃G’sコミックで連載中の背徳的な擬似姉弟物語。

幼くして両親を亡くした少年・夕は、千の仔孕む森の黒山羊と呼ばれる美しくも異形の悪魔と出会う。願いを叶えるという悪魔に、夕は家族、そして姉になって欲しいと悪魔に乞う。そして、奇妙でエロティックでありながらも暖かく愛情深い二人の同居生活が始まる…。

また本作は、ぽち小屋。の名義で発表されている同題の18禁同人漫画の青年漫画へのリライトである。【ピクシブ百科事典:姉なるもの

千の仔孕む森の黒山羊:豊穣の女神・母神としてクトゥルフ神話に登場する神。【シュブ=ニグラス:ウィキペディア

クトゥルフ神話:ラヴクラフトとその友人等によって、19〜20世紀に作り上げられた架空の神話体系。またクトゥルフ神話が記述された小説群は、広漠で無機質な宇宙とその法則、そして矮小な人間存在を対峙させることによって呼び起こされる諦観と畏れを主題とし、宇宙的恐怖(コズミックホラー)作品と分類される。


あらすじ

物語は、二度と会うことのない大切な人との思い出を語るようなモノローグ、そして「僕のお姉ちゃんは、悪魔だ。」なる言と共に幕開ける。


幼くして両親を亡くし親戚をたらい回しにされた14歳の少年・夕は、母の従弟に引き取られるものの、その従叔父も一ヶ月後に入院してしまう。

従叔父の広い屋敷に一人きりとなった夕は、近づくことを禁じられていた蔵に足を踏み入れ、千の仔孕む森の黒山羊と呼ばれる美しくも異形の女と出会う。

背徳的な四肢を持ちながらも慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、蠢く長い髪と蹄のある獣の脚、そして禍々しい二本の角という異形を有するその存在を前に、夕は自己の卑小さ、そして自身の死を意識する。

その存在が告げる大切な物と引き換えに願いを叶えるという言葉に、自分の人生に足りなかった、欲しくてたまらなかった「家族」、そして「お姉ちゃんになってください」と夕は口にする。

その夕の言葉に驚きと喜びを表したその存在は、自身を千夜と名付け、夕への濃厚な口吻の後、夕の願いを叶えることを約束する…。


そして、人の肉を纏った千夜と夕との生活が始まる。

しかし千夜は、夕の前で裸身をさらしたり、食事として胎盤を提案したりするなど、人として、そして姉として適切な言動ができなかった。

旧き悪魔として人間に畏れ、敬られてきた千夜にとって、人間として、そして姉としていかに生きれば良いのかわからなかったのだ。

そんな千夜に、夕は自身が思い描く理想の家族を体現するかのように接する。それは、孤独だったゆえの反動なのか、思いやりと敬意、そして愛情深い触れ合いであった。

対する千夜も、孤高の存在だったゆえか、自身が受け入れられていくことに喜びを感じ、夕への執着を強めていく…。


感想

クトゥルフ神話の悪魔という強烈な存在でありながら美しく肉感的な大人の女が、人間に対する無知ゆえの純粋さで弟を愛でる描写は、その秀逸な作画も相まって極めて官能的である。

そして様々に張られた伏線と未だ語られない謎は、官能的ながらも穏やかに進行する日常へ、不気味さと緊張感を与えているように思える。
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