喰う寝るふたり 住むふたり 日暮キノコ作

喰う寝るふたり 住むふたり
作者:日暮キノコ
掲載:月刊コミックゼノン
期間:2012-2014
巻数:全5巻
評価:★★★☆☆
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『喰う寝るふたり 住むふたり』は、日暮キノコ作のラブコメディで、月刊コミックゼノンにて2012年から2014年まで連載された。全5巻。

同棲8年目のりつ子と修一は、10年間の交際を続けるものの、恋人と言うには馴れ合い過ぎ、夫婦というにはまだまだ大人になり切れない。そんな二人の、交互に移り変わる視点で綴られる、すれ違いあり喧嘩ありの日常系恋愛コメディ。


導入

リツコ編

町田りつ子は、彼氏・野々山修一(のんちゃん)との事情を聞かれるたびにうんざりしていた。

籍を入れずに8年も同棲していることを言うと、まず驚かれ、次に結婚しないのかと言われる。そして形式にはこだわってはいないからと説明すると、返ってくるのはいつも合点のいかない「へぇー」だった。

その日、りつ子は仕事が休みで高校の同級生・新沼三奈(ニーナ)を家に呼んで鍋をつついていた。

まさか10年持つたぁ高校のときは考えもしなかったね
なんでアンタたち結婚しないのさ?
三奈からもそんなことを言われ、うんざりしてりつ子は答える。
…もうね…
その質問に答えんのめんどくさいからいっそ結婚してしまおうかと…

鍋も食べ終わり、雑談しながら洗い物をする二人。
まぁー、実際子供だろうねー
皿を下げながら三奈はりつ子に言う。

子供もいつかはほしいと思っていた。しかし、いつかっていつだろうともりつ子は思う。
…てゆか、まだされてないし…
…プロポーズ
とりつ子がキッチンで洗い物を続けながら話していたその時、修一が家に帰ってくる。

そろそろ帰るよという三奈に、車で駅まで送るよ修一は応える。

三奈を送った帰り道。助手席に座っていたりつ子は、テンションが低く不機嫌そうな修一を見て思う。

遅くまで、家に人を呼んでたから怒っているのだろうか、何年経っても分からないキレポイントがあるな…と。

そして、こんな感じで結婚なんてできるのかと…。

家に着くと、修一は
今日ソファで寝る
と一人居間に向かう。

残った洗い物をしながら、衝突する前に逃げたなとりつ子は思う。そして、同棲を続けていても、私達はいつまでも子供だとも考える…。

でも、子供なりに仲直りしなくてはと、炊飯器に残ったご飯でおにぎりを握る。そうやって、修一の朝ごはんを作る。

次の日、会社の朝礼のタイミングで修一からのメールがりつ子の携帯に入ってくる。
おにぎり超うまかった
ありがとう
そんなメッセージに、りつ子はおもわず笑顔になる…。

のんちゃん編

修一の朝はりつ子よりも一時間早い。そのため、彼女の作る朝ごはんには憧れているものの、りつ子は朝弱いしな、嫁じゃないしな、と思いながらその日も会社に向かう。

休みの日、修一は会社の先輩と釣りに来ていた。

野々山くんとこはまだ結婚しないの?
先輩にそう聞かれ、釣り糸を並んで垂らしていた修一は答える。彼女がまだまだ仕事がしたいだろうし、俺も週末はこうして遊びたいんで…と。

そう言いながら、修一は去年のクリスマスのことを思い出す。

その日修一は、プロポーズするぞ…と、指輪をりつ子に贈った。りつ子はもちろんすごく喜んで、幸せそうだった。結婚のこともさりげない感じで伝えた。

しかしそれから2ヶ月、りつ子からの反応は特になかった。でも修一は、焦って結婚することもないし、りつ子にはりつ子の考えがあるだろうしと、気長に待つことにしていた。

釣りを終えて家の前まで来ていた修一は、家の中からのりつ子たちの声を聞く。そういえば、新沼さんが来る日だったか…と家の鍵を開けようとしていたその時、りつ子の声に修一は固まってしまう。
…てゆか、まだされてないし…
…プロポーズ

プロポーズ伝わってない…。家に入り、新沼さんをりつ子と駅まで送るその間、修一はそれだけを考えていた。りつ子といろいろ会話しながらも、それだけが修一の頭をぐるぐるとまわり続ける。

りつ子への返答も投げやりになり、りつ子の間がピリピリしてくるのを感じる。

ふて寝してやると、修一は居間に一人で入り、ソファに横になる。そして、りつ子は俺と結婚する気があるのか、りつ子の俺への愛情って薄くないかと、思い始める。

そして、修一は思う。付き合いが長いから安心しきってたけど、自分たちの間ってゆるやかに下降してるのでは…と。

次の朝、一人で目覚めた修一は台所のおにぎりに気づく。

そして、そこには
のんちゃんへ
おみやげありがとね。
リツコ
と書かれたメモが一緒にあった。それを見た修一は、昨夜のこともあってか、おもわず泣きそうになってしまう。

寝ているりつ子を見ながら、起こしてお礼を言おうかとも修一は考える。しかし時間もなかったので、りつ子をそのままに修一は会社へ向かう。

会社に着いた修一は、先輩に自慢しながらりつ子の握ってくれたおにぎりを食べる。そしておにぎりを食べながら、朝のりつ子のメッセージを思い出して、また涙が滲んでくるのであった…。


感想

10年経っても変わらずりつ子のことばかり考えている修一に、様々な不満はあるものの修一だけと心に決めているりつ子。

こんな穏やかな二人の日常は、こんな二人だったからこそという点ももちろんあるが、高校からの付き合いであるということや、惰性という要素もありながら、これまで禍根を残す問題が二人の間になかったからこそ成立しているんだろうと思う。

しかし実際は、世の中の男も女もロクでもなく、そのロクでもなさから生じる様々な問題が恋人たちの間に起こる。そしてそれでも、恋人たちは禍根を抱えて苦しみながらも二人で生きていく。こんな感じが現実の恋人もしくは恋人を経た夫婦というものである。

それゆえに、理想的なこんな二人の穏やかな暮らしは、自分たちの生活の中の善良な部分を切り取ったものだ…、と考えて楽しむのが私の本作の読み方である。
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