ダンジョン飯 九井諒子作

ダンジョン飯
作者:九井諒子
掲載:ハルタ
期間:2014-
巻数:既刊4巻
評価:★★★★★
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九井諒子作の『ダンジョン飯』は、ハルタで連載中のファンタジーグルメ漫画で、2016年『このマンガがすごい!2016』オトコ編第1位。

Wizardry』的ダンジョンを旅する冒険者が、ダンジョン内のモンスターを食し、いかに自給自足していくかが描かれた、アバンギャルドなファンタジー漫画。

Wizardry: 1981年に発表されたRPGの元祖ともいうべきゲームで、3Dダンジョンを延々と攻略していくというアドベンチャーゲーム。また、ターン制の戦闘や経験値を蓄積してパワーアップするなど、そのゲームシステムは『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などの見本となった。【ウィキペディア:ウィザードリィ


導入

戦士ライオス率いる冒険者一行は、ダンジョン深部のドラゴンと相対していた。メンバーの装備、経験共に、この強大な魔物を倒す力はあったのたが、食料を早々に失った彼らは、力が出ず全滅しそうになってしまう。

危機を脱出するため、ライオスの妹ファリンは最後の力をふり絞り、迷宮脱出の呪文を唱える。しかし、そこにファリンの姿はなかった。

一文無しになってしまったライオス達であったが、ファリンを早く助け出すため、ライオスは残ったメンバー、魔法使い・マルシルと鍵師・チルチャックに、このままダンジョンに潜ることを提案する。

それは魔物を狩って食い扶持とし、ダンジョン深部へ向かうことを意味していた。そんな気持ち悪いものは食べられないと抵抗するマルシルであったが、背に腹は代えられず、ライオスに続くのであった。

低層に現れるザコ・歩き茸を一瞬で倒し、これを食べようとライオスは提案する。ほんとに大丈夫かと言うチルチャックに、ライオスが差し出したものは、年季が入り付箋のびっしり貼った迷宮グルメガイドだった。
お前、前々から食べる機会伺ってただろう?
チルチャックのその言葉に、思わず顔が赤くなるライオスであった…。

以下はネタバレ注意。


あらすじ

ダンジョン飯の世界

トールマン(人間)、エルフ、ドワーフ…。異種族が共に暮らす、剣と魔法の世界。

その小さな村で、ある日地下墓地の底が抜け、そこから一人の男が現れる。男は一千年前に滅びた黄金の国の王を名乗り、その国は狂乱の魔術師によって地下深くに囚われて続けていると言う。

そして男は、魔術師を倒したものには国の全てを与えようと言い残し、塵と消える。

その日から、様々な種族の冒険者たちが地下墓地を目指した。しかし、地下墓地の底に空いた穴は深いダンジョンに通じ、多くの魔物が現れた。それゆえ、狂乱の魔術師に出会った者も、黄金の国を発見した者も未だいなかった。

初めての魔物食

そんな冒険者のある一行、トールマンで戦士のライオス、ライオスの妹で僧侶のファリン、エルフで魔法使いのマルシル、ハーフフットで鍵師のチルチャック、そしてナマリにシュローは、今まさに炎竜(レッドドラゴン)と相対していた。

しかし、炎竜は強く、一行は全滅寸前にまで追い込まれる。しかし、最後の力を振り絞ったファリンの迷宮脱出の呪文によりメンバーは、九死に一生を得るのだった…。


ライオスが気づくと、そこはダンジョンの外。しかし、炎竜に喰われたであろうファリンはおらず、一文無しになってしまったゆえにナマリとシュローもメンバーを抜けた後であった。

ファリンを助けるため、ライオスはマルシルとチルチャックに時間を置かずダンジョンに潜ることを提案する。それは一ヶ月程度の期間内に助け出せれば、復活の呪文によりファリンを助けられる可能性があったからだった。

しかしそれは、食料を買わずにダンジョンに潜り、魔物を狩って食しながら進むことを意味していた。実のところ、ライオスは前から魔物を食べたくて調査を進めていたのだ。


初めての魔物食のため、ライオスは歩き茸と大サソリを狩り、迷宮グルメガイドを参照しながら、適当に乱切りした歩き茸と大サソリを鍋に入れていく。

そんなライオスたちの前に、鍋を担ぎ斧を携えたドワーフ・センシが、そのやり方は感心せんのう…と現れる。

センシは10年もの間、魔物食を研究してきた第一人者的人物だったのだ。そんなセンシに従いながら調理を進め、干しスライムまで分けてもらいながら出来上がった「大サソリと歩き茸の水炊き」は、嫌がっていたマルシルも思わずおいしいと言ってしまうほどの出来であった。

そして、食を共にしたライオスたちは、魔物食をすることになった経緯をセンシに話す。それを聞いたセンシは、ライオスにその旅に同行させてくれと頼む。

ライオスたちにとっては、それは渡りに船のような提案だった。しかしそれは、センシにとっても炎竜を調理するという長年の夢が叶うチャンスであったのだ…。

ダンジョン地下2階のグルメ

ライオスたちはダンジョンの地下2階に下り立っていた。そこは村の地下墓地である地下1階とは様相が異なり、黄金城の尖塔にあたる塔がそびえ、周囲には狂乱の魔術師による呪いのためか、様々な木々が生い茂っていた。

そして魔物たちもぐんと強くなった。しかし、ライオスとセンシは熟練した戦士であった。彼らは、人喰い植物を狩って「人喰い植物のタルト」として喰らい、バジリスクを狩ってローストし、鶏肉料理に似た「ローストバジリスク」に舌鼓を打つのであった…。


一行は尖塔から黄金城に入り階下へ向かう。しかし、他のメンバーと比較して体力のなかったマルシルは、自分が足手まといになっているのではないかと不安を感じ始める。

そんなとき、センシが階下へ進む前にマンドレイクを採取しておこうと言い出す。それはマルシルにとって僥倖ともいうべき事態であった。マンドレイクは魔術や薬学の基本であり、マルシルは自分が役に立つときがきたと思ったのだ。

しかしセンシは調理のプロであると同時に素材のプロでもあった。センシは、マンドレイクは引っこ抜くと同時に頭をナイフで落とせば、マンドレイクが叫ぶ前に採取できることを知っていたのだ。

しかしマルシルも引かなかった。自分のやり方で採るんだと、犬に縄で引かせる方法を応用した大蝙蝠に縄を引かせる方法を考えついたのだ。

マルシルの方法は成功した。縄をかけた大蝙蝠がマルシルに突っ込み、マンドレイクの叫びを僅かに聞いてしまったマルシルは少し喪神状態になってしまったけれども…。

何はともあれ、十分にマンドレイクを採取した一行はバジリスクを狩ったときに手に入れた卵と一緒に「マンドレイクとバジリスクのオムレツ」を作り、腹を膨らませたのであった…。


ファリンを助けるため、一行は魔物が少なく近道だがたくさんの罠が仕掛けられた道を進んだ。そのような道は、チルチャックの罠抜けの技術があったからこそ可能な道程であった。

斧が落ちてくる罠、矢が降ってくる罠、槍が飛び出してくる罠など様々な罠があったが、火炎が噴き出してくる罠を見たセンシはハッとなる。

かき揚げ !!
センシにとってそれは天啓であった。そして抵抗するチルチャックを説得し、作り上げたのが「マンドレイクのかき揚げと大蝙蝠天」であった。それは、火炎の罠を調べ尽くしたチルチャックだからこそ成し得た絶妙な揚げ加減であった…。


多数の罠が仕掛けられたエリアを抜けた一行は、広間に出る。しかしそこは、動く鎧が待ち構える部屋であった。

どんな味がするんだろう?
追求者たるライオスの言であった。しかし、鎧が食えるわけないだろうというのが皆とセンシの答えだった。

しかしライオスは諦めなかった。そして動く鎧が実は鎧の隙間に群生した生物であり、貝のような軟体動物が隙間を埋めていることを発見したのだ。

焼いたり、蒸したり、炒めたりと、センシにとって動く鎧の調理は初めてだったが、味は良かった。マルシルによるとキノコっぽい味だということだった。

またライオスは、動く鎧が身に付けていた剣を戦利品とした。そのときライオスは、ちょうど剣を失っていたのだ。

剣には例の群生生物が巣食っていたけれども…。

ダンジョン地下3階のグルメ

迷宮地下3階の黄金城内部。栄華を極めた黄金城は見る影もなく、そこにはカビや埃にまみれたダンジョンが広がっていた。

3階には食える魔物が少ない…
というセンシの言葉の通り、地下3階はスケルトンやグール、そしてレイスなど死せる者達の巣窟だった。

その3階で、一行はセンシが拠点としているキャンプ場に来ていた。その近くには、センシが野菜を植えた魔法生物のゴーレムがいたのだ。

泥や土から成るゴーレムは、野菜を育成するにはうってつけだった。ゴーレムは近づくものを排除するために植えた野菜は守られるし、ゴーレムは自身の体が脆くならないように自ら体の水分量を一定に保つよう動作した。言わばゴーレムは、勝手に野菜を育ててくれる自動野菜生育器であったのだ。

センシは襲ってくるゴーレムの核を素早く掘り出すと、皆にも野菜の採取を手伝うよう促す。倒れたゴーレムの背中には畝が並び、キャベツ、人参、ジャガイモにたまねぎ、そしてかぶが植えられていた。

それらを採取して出来上がったのが、種々の野菜と厚切りベーコンを一緒に煮込んだ「丸ごとキャベツ煮」、そして採取したかぶをメインにした「かぶのサラダ」であった。そして、そんな滋養たっぷりのメニューにライオス一行も満足気であった…。


たらふく食った一行は、再びファリンを助けるためのダンジョン探索を開始する。しかし大量の野菜を抱え、いま魔物に襲われたらひとたまりもないだろうというのが一行の共通の認識であった。

そこで一行は、迷宮内にいる商人に野菜を売ることに決め、彼らの下へ向かう。

そこは、ダンジョン内に作られた酒場兼宿屋のような場所で、商人たちは冒険者や地上に戻れない訳ありの人々を相手に商売をしていた。

しかしそこで、一行はオーク達に襲われる。地下5階に集落を作っていたオーク達は、集落を炎竜に襲われ地下3階に逃げ出して来たのであった。

オークに捕まり、野菜も奪われたものの、センシがオーク達と知った中であったこともあり、一行は事なきを得る。そしてまた、炎竜に襲われた集落の場所を聞き出せたのも、一行にとっては貴重な成果であった…。


それから一行は、コインに擬態したコイン虫や宝石に擬態した宝虫までをも喰らい、適当に作った聖水でレイスたちを粉砕しつつ、迷宮の奥へ奥へと進む…。


一行は、ダンジョンが黄金城だった頃に食堂だったらしき部屋に足を踏み入れる。その部屋には何十人と座れる長テーブルがあり、壁には絵画が飾られていた。

その一つの絵画の前でライオスはハッとなる。その絵は、生ける絵画と呼ばれる魔物であり、人を絵の中に取り込んでしまうのだ。

しかしライオスは、逃げようとしたのでも戦おうとしたのでもなかった。絵に書かれた食べ物を、絵の中に入って食おうとしたのだ。

そんなライオスに一行は当然ながら反対した。しかし挑戦者たるライオスを止めることは誰にもできなかったのである。

そうして絵の中に飛び込んだライオスは、こそこそしながらも宮廷料理のフルコースをたらふく食べることに成功する。しかし当然ながら魔物に見つかり、ライオスは襲われ、殺されそうになってしまう。

何とか絵の外に脱出したライオスは、目的を達成したかにみえた。しかし、当然といえば当然だが、帰って来たライオスの腹は少しも膨れていなかったのであった…。


大幅に時間を無駄にした一行は、やむなく食堂近くの厨房で睡眠を取ることに決める。

しかし、皆には黙っていたが、チルチャックは隣の部屋にミミックがいることに気づいていた。それは、もしミミックがいると言えばセンシとライオスが食おうと言い出すことは分かりきっていたし、ミミックに何度も苦渋を味合わされたチルチャックは、なるべくミミックに係わりたくなかったのだ。

しかしチルチャックは、ちょっとしたミスからミミックのいる部屋に閉じ込められ、襲われてしまう。

何とか罠を利用してミミックを倒したチルチャック。しかし、傷付いたチルチャックをよそに、センシとライオスはミミックをどうやって食べるかに夢中であった…。

ダンジョン地下4階のグルメ

迷宮地下4階。岩盤の割れ目から流れ出た地下水が湖を構成しており、地下5階へ向かうには湖を超える必要があった。

しかし、湖には水棲馬(ケルピー)や魚人など、魔物の巣窟となっており、泳いで渡るには危険であった。それゆえに本階層の探索には水上歩行の魔法により湖上を渡るのが通例であった。

ところがセンシは魔法というものを毛嫌いしていた。さらには、魔物の血や脂をたっぷり吸ったセンシの髭には、魔法がほとんど効かなかったのだ。

そこでセンシは、馴染みのケルピー(センシによる愛称はアンヌ)に騎乗し、目の前に食事をぶら下げることにより、ケルピーを制御して湖を渡ろうと考える。

しかし所詮は魔物、センシを乗せたケルピーは、センシを水中へ引き込み、センシに牙をむく。

咄嗟に飛び込んだライオスの助けによってセンシは難を逃れたものの、可愛がっていたケルピーは殺すしかなかった。センシは呆然としながらも、それが供養であるかのように、ケルピーの解体を始めるのであった…。

そして、マルシルによるケルピーの脂から作られた石鹸(水棲馬油石鹸)によってセンシの髭は洗われ、ついにセンシへの魔法は成功するのであった。


そんなセンシとマルシルをよそに、チルチャックとライオスは暇であった。そこでライオスはチルチャックを伴い周囲の探索に向かう。

そしてライオスたちは、水上で全滅したパーティーを発見する。周囲には魚人と呼ばれる魔物の死骸もあり、それらとの戦いの途上で全滅したようであった。

死体回収屋が見つけられるように、死んだパーティーを陸上に運んでいたライオスたちだったが、不意にチルチャックがふらふらとあらぬ方に歩き出してしまう。

チルチャックは人魚の歌に魅了されてしまったのだ。それに気づいたライオスは、すぐにチルチャックを正気に戻し、人魚の歌に被せるように同じ歌を歌い出す。

そして
知らない奴が、急に歌を合わせてくるって、相当な恐怖だぜ
というチルチャックの言の通り、気持ち悪いものを見るかのようにライオスを見た人魚たちは、水中に逃げ込むのであった…。


感想

経験豊富な冒険者が、ざくざく魔物を殺して、調理していくその過程はとても食えるもんじゃない感じだが、出来上がりはなかなかうまそうである。

また、栄養バランスと美味しさなど色々な要素が詰め込まれたその詳細なレシピは、絶対人生に役に立たそうだが、見入ってしまうほどに面白い。
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