箱舟の行方 シギサワカヤ作

箱舟の行方
楽園
(2006)
全1巻
シギサワカヤ
★★★★★
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シギサワカヤ作の『箱舟の行方』は楽園で連載していた恋愛オムニバス漫画。

大人の男女の恋と愛、そしてセックスを描いた恋愛物語群。それはどれも、刹那的で未来の見えない物語だが、その一時の恋やセックスは登場人物の全人生を表すかのように深く、重い。

女性心理を深く描く作品ゆえに、男である自分には本作で描かれる心の動きがリアルなのか過剰なのか判別つかないが、刺さる尖った作品であることは確かである。

以下はネタバレ注意。


箱舟の行方

箱舟の行方

★★★★★
入社すぐにエレベーターで無理矢理にキスされた女は、同じ会社に恋人が居ながらも、それに抗うことはできなかった。

そして恋人と結婚し寿退社する最後の日、女は再びエレベーターで男と2人きりになる。女は警戒感を表に出すように、男へその妻と家庭の話をする。

男との関係は今日で終わりだと思っていた女は、この最後の日にいままで触れることのなかった男の内面に踏み込んでしまう。

突然止まってしまったエレベーターの中で、女は時が早く過ぎるのを願うように目を合わさずに「黙っててください」と言い、男は「キスすんのはいいの?」と聞く。
…ダメに決まってるでしょう
…一回や二回したからってそんな
と言う女に、男は
一回や二回じゃないでしょ
あの日
体中に死ぬ程したよ
覚えてるでしょ?
と女を自身に引き寄せる。

何度も何度も男の名を呼び、好きと言い、体を絡めたその夜を反芻し、
死ぬかと思う位
感じました
と言葉が溢れる。

しかし必要以上に熱くなるわけでもなく、冷静さとユーモアを交えた会話の中で2人は抱き合い、唇を交わし、体を繋げていく。

体を交わしながら女は思う、このエレベーターは海原を漂う舟のようで
逃げれば溺れて深みに嵌まる
そしてゆらゆら揺れて、自分はどこに言ってしまうのだろうと・・・。

ウィーク・エンダー

★★★☆☆
別れが近いことを感じた女の、自分という人間を男に刻み込もうとする行動が描かれた単ページのショートストーリー。

別れ、次に出会えばすぐに憂いを感じることもなくなってしまうにもかかわらず、男にはいつまでも自分を思い出させ、優越を感じていたいという、女が何気なく行う行動が切り取られた作品。

こい、のようなもの

★★★☆☆
男同士のような友人関係から恋人になった2人の不自然さと悩み、しかし別れを選択することはできない程の繋がりを持つ2人ゆえの滑稽な努力が表現されたショートストーリー。

つまりは病のような。

★★★★☆
浅い男女の恋に絶望し臆病になった男子高校生と、4年もの恋人関係が体の繋がりが離れてしまった途端失われてしまったことに傷ついた女子大生の恋の始まりを描いた物語。

恋の始まりのみを描いた物語ながら、終わりも見えてしまうところにリアリティを感じる。

ワールズエンド・サテライト #1

★★★★☆
つき合い始めて2年の2人の何気ない日常を切り取ったショートストーリー。

ここで表現されるのは、何気ない日常の中で、ちょっとした男の言動によって、女が別れを考えたり、思い留まったりしているという事実と、それに全く気付かない男の滑稽さである。

ワールズエンド・サテライト #2

★★★☆☆
不倫関係にある男女の、事を終えた後の気怠い会話が描かれる。

そこには、大きな波や到達点や未来は見えず、お互いの人生におけるわずかな引っかかりしか感じられない。

空の記憶

★★★★☆
本物語では、連休前に初めて体を交わし、日を忘れるほどそれに溺れる2人の男女が描かれる。

そのお互いの肌しか感じられない長い時間の中で、女は未来自分が別の男に抱かれながら、どういう風にこの時のことを思い出すだろうと考える。そして女は、目の前の男のことを想い、この愛しさが消えてしまうその日を思い切なくなる。

しかし連休明けの出勤日、今も下半身に残る違和感を感じながらも先に家を出た彼女には、不安感はもうなかった。
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