思春期ビターチェンジ 将良作

思春期ビターチェンジ
作者:将良
掲載:COMIC ポラリス
期間:2012-
巻数:既刊5巻
評価:★★★★☆
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将良作の『思春期ビターチェンジ』は、2011年からWEBの自サイトで、2012年からはWEBコミック・COMIC ポラリスで連載されている、男女入れ替わりモノ学園ドラマである。

入れ替わり性転換フィクションという使い古された題材ながらも、入れ替わったことを隠したまま小中高と成長していく男女を描いた、今までにない作品である。

そして、本作で描かれる女子として生きる男子、男子として生きる女子の思春期は、リアリティがあり心に響く。


導入

中学生の男女、木村祐太と大塚結依は、他に誰もいない公園にいた。そして祐太(ユイ)が、結依(ユウタ)につぶやく。
まさかずっと戻れないままなんてね…

3年前の同じ公園。木に登ったユウタは、真下に居たユイの上に落下してしまう。痛い痛いと互いに言いながら、ユウタは悪びれる様子なくユイに謝り、ユイはユウタを責める。しかしユウタとユイは気づく、互いが入れ替わっていることに。

ユウタの提案で再び片方が木から落ちて…、ということも試してはみたが戻る気配は全くなかった。そうこうしてるうちに日も暮れてしまい、その日は互いの家に帰ることに決める。

心配性なユイは不安とショックで泣きそうであったが、楽観的なユウタは面倒なことになったなぐらいの気楽な感じであった…。

以下はネタバレ注意。


あらすじ

小学生編

入れ替わってしまった木村祐太と大塚結依は、戻る手立てもなく、互いの家に帰るしかなかった。

結依の家に帰ったユウタは、ユイに言われた注意点を慎重に守りながら過ごす。しかし、一人の食事や遊ぶものなど全くない結依の部屋、そして互いに関心のない家族にユイへの同情心が芽生える。

一方、裕太の家に帰ったユイは、その騒々しい家庭に驚く。帰るとすぐに、弟・春樹が飛んできて遊ぼうと言い、母親は玄関まで裕太を迎えてくれる。そして夕食は三人で囲み、それは豪華でおいしかった。

しかし、弟と入ったお風呂で、ユイの不安は一気に高まる。
オレのにいちゃんどこ?
と春樹が言ったのだ。ユイはとっさに、これはゲームでゲームに勝ったら裕太は戻ってくる、だから内緒ねと春樹に言ってその場をやり過ごす。

ユウタとユイは、学校でも気を付けなければならなかった。互いが入れ替わったことがバレないように。そのために、放課後は毎日、例の公園に集まり、近況を報告し、対策を練った。

ユウタには幼稚園からの親友・高岡和馬がいた。そして、ユウタは和馬には話そうとユイに言う。和馬は、信用できるし、味方になってくれるからと。ユイも和馬ならと渋々了承する。

二人は和馬に告白するも、初めは信じてくれなかった。しかし、ユウタとユイがあまりにも必死だったため、二人を信じること、そして二人に協力することを約束する。

ある日ユウタは、春樹のことが心配だったこともあり、遊びに来たという体で自宅に行く。春樹と遊んだユウタは、元気そうな春樹に安心する。
はやく、ゲームに勝ってね!
という春樹にドキッとしたものの…。

そして二人は、入れ替わりが解けることなく中学生を迎える…。

中学生編

入れ替わったまま中学生になってしまったユウタとユイ。ユイはユウタに女性らしく過ごすことを要望し、ユウタはユイに女々しい奴だと思われないようにと注意する。そして互いに頑張ろうと、二人は励まし合い、中学生活が始まる。

しかし入学初日からユウタは男子と喧嘩してしまう。それは正義感からであったが、ユウタはクラスで少し浮いた存在となってしまう。

一方、ユイは木下という女性徒に関わりを持ってしまう。木下は、真面目過ぎて孤立しがちな女性徒であり、それは昔の自分を見るようでほっとけなかったのだ。

クラスで何となく一人になってしまったユウタだったが、その考えることなく発揮される正義感や優しさから、女性徒に受け入れられクラスに馴染むようになっていく。

そのころ、ユイは困ったことになっていた。木下さんが裕太の姿をしたユイに惚れてしまったのだ。そして木下さんは、結依の姿をしたユウタにライバル宣言までをもする。それは、接触の多い二人が特別な関係だと誤解したからであった。

ある時ユイは、自分の家に行く機会を得る。それは、ユイが入れ替わってから初めての我が家であった。そこでユイは、家の雰囲気が変わっていることに気づく。母親は笑顔を見せ、結依の部屋には、父親が買ってきたぬいぐるみがたくさんあった。それは、ユイたちが入れ替わる前にはなかった家庭の温かさだった。

この家庭の変化は、ユウタが両親に訴えたからだった。ユウタにはユイに関心がないように見えるユイの両親に我慢ができなかったのだ。ユイの家庭に口出ししたことをユウタは謝り、ユイもユウタに怒りをぶつけた。しかし同時に、ユイができなかったことを簡単にしてしまうユウタに、ユイは憧れを抱くのだった。

入れ替わってから5年。未だ二人が元に戻ることはなかった…。

高校生編




感想

男女の精神が入れ替わってしまったらという物語は枚挙に暇がないけれど、それが思春期を通して継続してしまったら、その男女はどんな悩みにぶつかり、どんなふうに解決、もしくはやり過ごすのだろう。

そして、自分の体の変化や、環境の変化、思い通りにならない自分の心とどう向き合っていくのだろう。そのようなことを、奇をてらうことなく、現実的に描いた得難い作品だと思う。


入れ替わりの考察

男女間で人格と記憶が入れ替わり、入れ替わった後も同様な人格が維持されるという設定は、肉体は魂の乗り物であり、魂は人間の人格や記憶や感情を全て含む、それだけで独立した存在であるという前提に基づく。そして魂は、視覚などの五感から情報を取得し、情報に基づき判断し、肉体を運転していると想定される。

しかし、入力情報は五感だけではない。それは例えば、ホルモンなどの肉体から送られてくる化学物質や、臓器から送られてくる電気信号などだ。それらは、人間の感情だけでなく、人格までをも変えていく。よく知られた話として、女性ホルモンを継続して投与している男性の脳が、男性型から女性型へ形態を変えることがある。

それはつまり、肉体という乗り物が変われば、魂も変質してしまうことを意味する。

このように考えてしまうと、女性に入れ替わった男性キャラクターが、女性になっても人格が前と変わらないなんてことはありえない。

しかしそこはまあフィクションである。
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