モンクロチョウ 日暮キノコ 作

モンクロチョウ
作者:日暮キノコ
掲載:週間ヤングマガジン
期間:2013
巻数:全3巻
評価:★★★★☆
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日暮キノコ作の『モンクロチョウ』は、週刊ヤングマガジンで連載していた青春ドラマ。

遊び人を装うもうまく立ち回れず、未だ童貞だった男子高校2年の正也が、性行為を通し、関係する女たちを傷つけることでプライドを取り戻し、また傷つけられることで堕ちていく様を描く。

総じて、高校時代の男女が性に抗い、飛び込み、そしてどうしようもなく押し流されていく、そのような様子を最悪の巡り合わせで表現した物語とも言える。


あらすじ

男子高校2年の岡部正也は、チャラい同級生と活動を共にするも、女子への免疫がないためにうまく立ち回れず、未だ童貞であった。

そんな鬱屈した日々を送っていた正也だったが、学校帰りにたまに会う隣の幼馴染である白石桃子を思い浮かべては、男と縁のなさそうな桃子に安心するのであった。


しかしある日、正也は家の鍵を忘れたという桃子の時間潰しのために、桃子を家に入れじっくり話をする機会をもつ。

二人きりで食事をしながら、正也は穏やかだった小学生時代の二人を思い出していたが、相対する桃子の口から語られたのは、
正也くんもやっぱり、コンドームしないほうが気持ちいいの?
という正也を驚愕させる言葉だった。そう、すでに桃子は経験済みだったのだ…。


仲間だと思っていた、むしろ見下していた桃子に先んじられた正也は、ショックを受けるものの一念発起し、積極的に行動を始める。

そんな正也に、桃子の相手が新堂要という同級生の中でも一際チャラい男であるという、さらなる厳しい現実が立ちはだかる。しかも桃子は、イケてる要にとって、その豊満な胸で抜くだけの女に過ぎなかったのだ。

そんな事実を要から聞いても、正也には曖昧な媚びた笑いしかできなかったけれども…。



男子高校生の歪だがありがちなスクールカーストの基準

どれだけたくさんの女と、どれだけたくさん性行為をしたかによって自分の価値が決まる。そんな思い込みにとらわれた男子高校生・正也は、その価値によって自分を卑下し、そして、他人を見下す。

それは、無邪気そうな幼馴染がすでに経験していることや、たくさんの奔放な女子高生との出会いによってさらに加速していく。


そんなクズを描いているようにも思えるが、どこにでもいるありふれた男子高校生のように見えるし、めぐり合わせが悪いだけで、誰でも陥る可能性のあるリアルな若者が描かれているように思える。


人のランク付けと女子に対するありがちな思い込み

正也の幼馴染である桃子は、胸が大きいが太っていて、食べ物のことばかり話すイケてない女、正也はそう桃子を見下していた。

しかし、桃子が既に処女ではないことを知って、正也はショックを受ける。


このように、自然と自己と他人の間にランクを付け、自分の中で勝手に一喜一憂する様は、誰でも覚えがあり、自己を投影し気分が悪くなること請け合いである。

また、無邪気そうで男に縁のなさそうな女子が、裏ではそうとうエグいことをしているなんてことはよくある話で、そんな知り合いの話を聞いてショックを受けた、などというのは男なら誰でも通る道である。

もちろん、小さい頃から仲の良い幼馴染が、というのは珍しいしショックも大きかろうと思うけれども。


性行為を通して決められる男女間の上下関係

正也が桃子との行為によって童貞を捨てるシーンもなかなか業が深い。

このシーンでは、傷ついた桃子につけ込む形で行為が始まる。そのうえ正也は、桃子を乱暴に扱いコトを成す。

そんな正也に桃子は、途端に冷めた調子になり、最後には「どうだった?初H、別にどうってことないでしょ」との捨て台詞を残す。


桃子は正也のイケてる同級生との間に経験があり、しかもその同級生に遊ばれていた。それを知っていた正也は、そんな同級生と同じように桃子を扱わなければ、自分のプライドを保てなかったのだと思われる。

そして、そんな正也に対し桃子もまた女のプライドを守るために正也を見下す。

そんな、性行為を通して男女間の上下関係を争う二人の描写は、見ごたえがあるものの、読む者の気持ちを暗くする。

ここでの描写は極端だが、恋人や夫婦の関係であっても、彼が彼女との性行為を求めて下手にでたり、彼女が自身との性行為を駆け引きに使うのはよくある普遍的な日常だろう。


女の性欲、そして女にとっての男という存在

本物語の肝とも言うべきものに桃子が正也に自身のことを語るシーンがある。

桃子は、正也と性行為をした後、正也の前から消える。しばらくして帰ってきた桃子は、誰もが振り向く美少女へと変貌し、男たちに復讐を始める。

そんな桃子に、正也は桃子が変わってしまった理由を問う。それに対し、桃子は答える。

桃子にとって、正也は大事な人間だった。そして、その関係を壊したくなかったから、桃子はダサいデブな桃子のままでいた。

しかし、成長するにつれ、桃子は自分がメスであることに抗えなくなっていった。男を意識してしまい、そして身体はどうしようもなく反応した。

そして、たくさんの男を経験し、大事だった正也もたくさんの男たちの内の一つに過ぎなくなっていった。


自分は男なので、この桃子の告白がどこまで普遍的、もしくは現実的なのかはわからない。

しかし本作は、現代の高校生の男女をリアルに表すことに重きを置いているように思えるし、作者は女性とのことなので、男たちの眼前に突きつけたい事柄として、これを表現したのではないかとも思えるのだ。
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